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貌似是妹爱线(不懂日文慎入)
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いつもの日曜いつもの休日。
行きたくもない大学で、毎日したくもない勉学に励んでいる自分へのご褒美として週に一回くらい惰眠を貪ってもいと思うんだ。
というか現代の日本人は働きすぎだろと。
ちょっとはフランスあたりを見習ってサービス残業廃止とか社会人になっても2ヶ月のバカンスをくれたっていんじゃね?ベーシックインカムが施行されたらニートとかなりたい放題じゃん!将来の夢はニートですとかマジで言えちゃう世の中サイコー!しかし悲しいかな…日々の生活にすっかり毒されてしまった俺の身体は、アラームがなくとも毎日同じ時間に目が覚めてしまうのだ。「ふわ……」
時計の針が朝7時を指していることを確認してから、俺、一之瀬誠はもう一度布団の中へと潜り込んだ。「…うん、あと10時間くらい寝たっていよな」「いわけないでしょ、このバカ兄貴っ!」べりっという音と共に何者かに布団をはぎ取られたが、そんな些細な妨害で俺の休息を奪うことなど出来はしない。すぐ側で喚く人間の声なんてきっと夢だ。幻だ。幻聴だ。「幻聴でも夢でもない!今から10時間も寝てたら起きるの夕方になっちゃうじゃない!」「…むにゃ。俺のことは気にしないでくれ。俺も気にしない…」「兄貴が気にしなくても私は気にするの!」「い?い?か?ら?起?き?ろ~~!」ガクガクガクガクガク。目を瞑っていても世界が揺れているのが分かる。恐らくこれは東京大地震の前触れであって俺だけが揺れているわけではないはずだ…!「ちょ…っ!まだ寝るわけ!?信じらんない!起きろってばぁ!」「大体兄貴は明日から教育実習なんでしょ!?そんなに寝てたら今夜眠れなくなっちゃうよ!」「ぬー…。眠れなくなったら世の中には便利な睡眠導入剤というものが…」「兄貴そんなの持ってないじゃない!?起きろったら起きろ~~~!」ガクガクガクガクガクガクガク。ぎゃーぎゃー喚く声と、がくがくと脳を揺さぶられる感覚に耐えきれなくなり、俺は渋々目を開けることにした。
「……あ、起きた?」「…起きた。起きたから揺らすの止めてくれ。姫月」「……ふん」俺が起きたことを確認すると、目の前の少女はぱっと手を離し顔を背けてしまった。この少女の名前は『一いち之の瀬せ姫ひめ月き』。まぁ一般的に見て、容姿は良い部類に入るだろう。しかしそれを持ってしても補えないほどの気の強さ!暴力的!口が悪い!という三重苦のマイナス要因を持つ、とても残念な感じの俺の妹だ。世間一般では妹という存在に憧れを抱く連中がいるらしいが、世の中そんなに甘いものではない。お兄ちゃん、お兄ちゃんと俺の後ろをちょこちょこ付いてきていたのは恐らく小学生低学年くらいまでだったろうか。高学年になると急に無視し始め、中学に上がる頃には知恵も付いたのか罵詈雑言の嵐。
そして現在に至るという感じだ…。
「……何?何か言いたいことでもあるわけ?」俺の思考を読んだかのごとく、姫月はじろりと蔑んだ視線を投げてくる。それが兄に対する態度かと言いたいが。「いや…、もうい。人生諦めが肝心だ」
「諦めって何よ!言いたいことがあるならハッキリ良いなよ!」「だからもういんだって。で?休日だというのに何でわざわざ起こしに来たんだ?」
「え、や、それは、えっと…ご、ゴミ出しなきゃいけないから、かな?」「は?ゴミ出しのために起こしたのかよ。そんなもん適当に持っていっとけばいじゃないか」「だ、だってこの部屋色々ゴミがあるじゃない!た、例えば…そう!兄貴とか!」「…は?俺?」「そ、そう!兄貴はゴミなの!このゴミ兄貴!今日は生ゴミの日だから、ゴミ兄貴を捨てなきゃいけないの!」「んなアホな事あるか!」「アホもへったくれもないもん!ほら、さっさとゴミ箱に入ってよ!」「入るわけないだろ!」「あ…」外からゴミ収集車独特の音楽が聞こえてくる。「ゴミ収集車がきてしまったぞ…」「……っつ!兄貴の馬鹿!!ゴミ出せなかったじゃない!」「え?もしかしてマジで俺をゴミに出す気だったのか?」「うるさい!兄貴なんか夢の島に埋まって海の藻屑になっちゃえばいんだ!」「はぁ?何で起きて早々罵られなきゃいけないんだ。俺が何かしたか?」俺の言葉に姫月は一瞬悲しそうな表情を浮かべたように見えたが、すぐにいつもの仏頂面に戻り悪態をつく。「やっぱ頭の中もゴミなんだ…。こうなったらもう粗大ゴミ収集車を呼ぶしか…」「だーー!待て待て待て!何呼ぼうとしてんだ!」「え?さっきも言ったじゃない。粗大ゴミ収集車だよ?」「お前は何真面目な顔でアホなこと言ってんだ…」「ふん。ゴミ兄貴が真面目な顔してるより百倍マシ。てゆかいつまでその暑苦しい顔見せるつもりなわけ?」
「顔中涎と油で汚れてるんだけど。何それ。ガスコンロの物真似でもしてるの?」「何で俺がガスコンロの真似しなきゃいけないんだよ。誰だって寝汗くらいかくだろ」
「わ、私はかないもん!」「へ?マジで?寝汗かないって新陳代謝悪いんじゃねぇの?あぁ、だからそんなチビなのか」
ゴッ!!!!「~~~~~~!!!」「……何か言った?」「っつ!お、お前、何かあるとすぐ暴力振るう癖何とかしろよ!」
「デリカシーのないゴミは折り畳んで捨てとかないといけないじゃない?」「またゴミに逆戻りか…」「うん。ゴミ。生ゴミ。油が滴ってる粗大ゴミでも可」「ご、ゴミにも生きる権利くらい…」「ない」「………」「とにかくいるだけで暑苦しいんだから、ぼけっとアホ面晒してないで、顔の油を洗い落としてくれば?食器用洗剤でも使えば多少マシになるんじゃない?」「そんなもんで洗ったら顔がガビガビになるだろが!」「元からガビガビじゃない。食器用洗剤だろうがお風呂用クレンザーだろうが問題ないでしょ?とにかく、さっさと下に降りてきてよね!」そう言って姫月はどすどすと床を踏み鳴らしながら俺の部屋から去っていった。朝から妹に怒られ大学に行っても妹に怒られ家に帰って更に妹に怒られる。これがまぁ俺の日常。俺は妹に怒られるために生きているのだろうか?いや、決してそうではないはずだ。はぁ…とため息を吐くと、俺はふと昨日の素晴らしい出来事を思い出した。そうだ。こんな俺にも生きていれば良いことだって起きる。そう思える出来事があったんだ……。
ことの始まりは昨日の土曜日。俺はいつものようにパソコンの前に座り、発売されたばかりの『地獄天使ジブリーヌepisodeⅡ』に没頭する。初代ジブリーヌのあまりの素晴らしさに、続編が出ると知った時は感極まって涙が出たほど楽しみにしていたエロゲだ。一見爽やか学園もの風の可愛らしいイラストにそぐわないエグイ調教陵辱の数々。今まで考えたことすらない奇抜な露出プレイは既に神を超えてしまっているのではないだろうか。1作目の調教内容も素晴らしかったが、今回のそれは前回を大きく上回るほどの驚きと感動とエロさを俺に与えてくれている。「うを!こ、こでそんなプレイがまた新たに…!」「あわわ…ぴちこちゃんにみおんちゃんってばそんな所でそんな際どい…!うっわやべぇ!まじやべぇって!」「はぁ…はぁ…何だよこの原画マジ神なんじゃね?こんなアングルでこんな…うぁ…鼻血出てきた」生粋のエロゲーマーであるこの俺に鼻血を噴かせるだと…?「っく…これがバックウイングの実力なのか…!」俺は別の用途のために準備していたティッシュをおもむろに掴み、大量の血液を流し続ける両の鼻に捻じ込んでいく。「くそ…想定外のプレイに想定外の鼻血…血中酸素濃度が著しく低下しているに違いない…」一気にコンプリートしたい気持ちはあるのだが、それをやると俺は出血多量で死んでしまう危険性がある。こは一旦プレイを中断しクールダウンすべきだろう。そう考えた俺はパソコンをログアウトし、小休止を取ろうとリビングへと向かった。
「ぎゃんっ…!」リビングへと続く扉を開くと、何かがぶつかる鈍い音ともに犬の悲鳴が聞こえてきた。「?犬なんて飼ってないが今の鳴き声は…?」疑問に思いつも室内へと足を踏み入れると。「ふぎゃんっ!!」「……?」
踏み入れると。「うぎゅっ!!」どうやら俺は犬を踏んでしまっているらしい。仕方ない、とばかりに目を向けると。「あぅう…い、痛いです~~」「うお!?」床に這い蹲つくばる黒い物体に驚いた俺が後ろに飛びのくと、ソレはむくりと起き上がった。「うぅう…」
「あ…」
「あう…お、お兄さん…こんにちは…」乱れた長い黒髪を整え立ち上がった少女を見て、俺はようやく合点がいった。扉にぶつかる天然さと踏まれ踏まれてもそれを甘んじて受け入れるおっとりヒロイン気質な少女はそうはいない。「ほ、ほのかちゃんか…!」
「あは…ま、まさかお兄さんに踏まれるとは思いませんでした…」「ご、ごめんね。まさか床にほのかちゃんが寝てるなんて思いもしなくて…」
「は。そ、そうですよね、まさか人様のお家に来て床に寝てるなんて考えもしないですよね!ごめんなさい…!」
「………」被害を被ったにも関わらず、自分が悪いと言い且かつ謝ってくるこの少女の名前は『桜ほのか』。姫月の友達で、この家には昔からよく遊びにきている。しかし俺自身は彼女が遊びに来ていた時にはほとんど自室に引きこもっていたので、顔を合わせたのは実に数年ぶりなのだが。「あの…本当にごめんなさい。私、ついうっかりしちゃって…」「え?あ、いや、ほのかちゃんが謝ることじゃないよ!俺のほうこそぼんやりしてごめんね」「そんな…お兄さんは悪くないです…私が…」いや、どう考えても悪いのは俺のほうだろう。そんなことを思いながら俺は改めてほのかを見つめる。子供の頃の記憶しかないが、数年ぶりに会った彼女はなかなかどうして。覚えている限り、彼女は子供の頃まるで牛乳瓶の底のように分厚い眼鏡をかけていた。失礼だとは思うのだが、いわゆる少し地味目な女の子という印象しかなかったのだが、今目の前にいる桜ほのかはそんじょそこらのアイドル顔負けな美少女っぷりなのだ。透き通るような白皙はくせきの肌に艶やかで長い黒髪。柔らかなカーブを描く水面のように淡い瞳。すべてのパーツが整っている。しかも清楚な白ワンピとキタ。やっぱり王道ヒロインはこうでなきゃいかん。「こうしてお兄さんときちんとお会いするのって7年ぶり…くらいです、ね」「あ…と、もうそんなに経つんだっけ?」「はい。いつ来てもお兄さんは忙しそうにされてましたから…」「は、は…」ほのかの言葉に思わず俺は苦笑してしまう。…まぁ、エロゲプレイで多忙な日々を送っていたといえばその通りだ。「と、ところでほのかちゃん一人?姫月はお客さんを放ってどこ行ってるんだ」本当のことなど言えるはずもなく、俺は話題を変えようと話を振った。「あ、姫ちゃんならベーキングパウダーを買いに行きましたよ」「ベーキングパウダー?」
「はい。今日姫ちゃんとお菓子を作る約束をしてたんですけど、ベーキングパウダーがなかったみたいで…」「へぇ。何を作るの?」「え、あ、あの…その…ま、まだちょっと分からない、です」「?そうなの?」「は、はい…」
「そ、そういえばお兄さんは来週から白皇学園に教育実習にいらっしゃるんですよね?」「あ、あぁ。そうだけど…姫月が言ったの?」「はい。最近姫ちゃんがそわそわして、どうしたのって聞いたら教えてくれました」「あ~。まぁあいつには嫌われてるしなぁ…。嫌いな兄貴が教育実習に来るのが嫌なんだろうな…」「え?そんなこと…」「すとおおぉーーっぷ!」ほのかが話し出すと同時に、背後から大音量の声が投げられた。「あ、姫ちゃん。おかえりなさい」
にこにこと挨拶をするほのかとは対照的に、白いスーパーの袋を片手に登場した姫月の顔はさながら不動明王のようだ。
「ほほのか!この馬鹿に妙なこと言わなくていから!」「え、え?でも姫ちゃん…」「いから!気にしないで!馬鹿がうつるから話しちゃ駄目だよ!」おいおい酷い言われようだな…。妹にこまで扱き下ろされる兄の姿を哀れに思ったのか、ほのかは困ったようにオロオロと俺たち兄妹の顔を交互に見遣る。
「てゆか何!?何で兄貴がほのかと一緒にいるわけ?」先程まで俺の存在など忘れさっていたかのように無視していた姫月がくるりと向きを変え、俺に刺さるような視線を送る。「いや、水飲みにきてドア開けたらほのかちゃんにぶつかってさ」「はぁ?兄貴ってば何どん臭いことやってんのよ!もっと気をつけてよね!」その言葉は俺を非難していると共にほのかちゃんもディスっていることになるのだが、果たしてこの妹様は気付いているのだろうか。「それに!私の友達が遊びにきてる時に、何勝手に部屋から出てきてるのよ!」「今現在兄貴が歩いてい場所なんてこの家にはないんだから!」「や、だから水飲みに来ただけなんだが…」「そんなの我慢できるじゃん!」「と、トイレにだって行きたかったし」「1日くらいトイレ行かなくたって平気でしょ!!」「無理だろそれ!!」無茶苦茶なことを言う妹に俺は思わず突っ込んでしまう。「挑戦してもいない内から何諦めてるのよ!少しは根性見せなさいよこの駄目兄貴!」「と、とにかく!マとパがいないんだから、私がこの家のルールなの。い加減覚えてよね!」「あ、あの、姫ちゃん。違うんだよ。私がもたもたして床に寝ちゃってたから…」姫月のあまりの理不尽なキレっぷりに、ほのかが助け船を出してくれた。フォローになっているかどうかは謎なところだが、ほのかちゃんマジ天使。「ゆ、床に寝ちゃって…?え、何?どういう状況だったわけ?」「あ~…実はかくかくしかじかで、扉がぶつかった時、床に倒れこんだほのかちゃんに気付かず踏んでしまったんだ」「はあああ???ふ、踏んだ!?ほのかを!??信じらんない!」「それは俺も信じられなかった」まさか人生の中で女の子を踏みつけることが起こるなんて夢にも思わないだろう。それもこんな究極美少女を。「何ドヤ顔で言ってんのよ!あんた馬鹿!?」「いってぇ!あんた馬鹿って、お前はみやむーか」
「は?みやむーってなに!訳わかんないこと言って誤魔化さないで!ほのかもほのかで文句言ったり怒ったりしていんだよ!?」「え…だって、それは私がぶつかった拍子にへたりこんじゃったのがいけなかったから」「ほのかは1μミクロンも悪いとこなんてないの!悪いのは全っ部このゴミがいけないの!!」
「ゴミ…?えと、私、一応人間のつもりだったんだけど…な…」
「はい??いや、ほのかが人間なのは分かってるよ大丈夫!ゴミなのはほのかじゃなくて私の兄貴のほうなの!」
「お、お兄さんはごみなんかじゃないよ!私がぐずぐずしてたからお兄さん気付けなかっただけだし!それに私に気付いたらすぐ退いてくれたもん!」あ、いや。それはほのかちゃんに気付いたからではなく黒い物体が蠢いていたのに驚いたからなのだが…。
「そんなの当たり前だから!てゆかぶつかった衝撃があるのにそっから更に踏みつけるとか酷いじゃん!」普段俺のことをゴミだ害虫だと言う姫月だが、今回ばかりは正しい意見だ。
「で、でも踏まれても私平気だよ!」「踏まれて平気な人間なんているわけないでしょー?もう!ほのかってば優しいのはいことだけど、こんな奴庇わなくていの!」「ち、違うの!他の人に踏まれるのはいやだけど、お兄さんならいの!!」「…………え?」「…………は?」「え、えー…と。ご、ごめんほのか。私、ちょっとほのかの言ってる意味が理解出来ないんだけど…」
奇遇だな、妹よ。何を隠そう俺もだ。「え?何?ほのかは踏まれるの好きなの?」「ち、違うよ!踏まれるのが好きなわけじゃないけど!でも、お兄さんは踏んだ後優しくしてくれたし…!」
「それに私はお兄さんのこと好きだから…!!!」「……………」「……………」「……………」昼間の住宅地のど真ん中だとは思えないような静寂があたりを包み込み、空気が凍ってしまったかのような印象を与える。「…え?あ、え?ほ、ほのか…?え?」
「あ…わ、私今、好きって……」姫月とほのかちゃんが我に返ったように、顔を真っ赤にしてあたふたと狼狽えているのだが、情けないことに俺の頭は今の状況に全く付いていくことが出来ていない。
「や、やだな!ほのかってば!じょ、冗談きついよ!この変態兄貴にそんなこと言ったら本気にしちゃうよ!」「え、あ…ち、違うよ!あぅ、ち、違ってないけど!じょ、冗談なんかじゃなくて…」
「わ、私は昔からお兄さんのこと…お兄さんの彼女になりたいって…思って…」そう途切れ途切れに言うほのかの目には涙が溜まっていく。
「ご、ごめんなさい…今日は帰ります!し、失礼します!!」ばたばたと慌しいスリッパの音が遠ざかり、玄関のドアがちゃりと響く。嵐の去った静けさとはこういうことを言うのだろうか。姫月と俺は、ただ呆然と黒髪の少女が先程まで立っていた場所を見つめるだけだった。「う、嘘だ……」「う、嘘だろ……」「あ、あれはきっと何かの間違い…。そう。そうなの。うん、よし」どうすればいのか分からない俺は、ぱちぱちと瞬きを繰り返している妹に助けを求めるが、姫月は姫月で、ぶつぶつと何かを呟きながらふらりとリビングを出ていってしまった。一人取り残された俺はぼすりとソファーに身を沈めた。………。正直な話ほのかちゃんに好かれる理由が俺にはわからない。『仲の良い友達の、年の離れたお兄さん』に憧れるというのはリア充にはよくある話なのかもしれないが、ご覧のとおり俺はオタクだ。あんな究極美少女に好かれる要素などひとつもない。「いや、でもほのかちゃんは嘘とか冗談言うタイプじゃないよな……」「や?でもさっき踏まれてもにこにこしてたし不思議な子だし、そのま鵜呑みしちゃ駄目な気もする……」…気もするのだが、しかし!俺は最悪の結果を想定をして、浮かれる気持ちを抑えようとするのだがどうにも口元が緩んで止まらない。人生苦節●年。この日、彼女いない歴=年の数の俺に、生まれて初めて異性から告白されるというビッグイベントが発生したのは紛れもない事実なのだった。
…………。「はぁ……」今思い出してもドキドキしてしまう。何せ俺が!可愛い女の子から!告白されたのだ。にやつく顔を抑えながら、顔を洗いすっきりして、俺は姫月の待つリビングへと向かった。
食卓にはパンにベーコンエッグ、ベイクドビーンズやサラダといったイングリッシュ?ブレックファスト風のメニューが並んでいる。焼きたてのパンの匂いというものはどうしてこうも良い匂いなのだろう。俺がまだ眠っている時に、姫月はこうしてパンまで焼いて朝食の準備をしてくれていたようだ。日曜日だというのに律儀な妹だ。「おはよ……」「……おそよう。早く食べて。冷める」何故かは分からないが、いつにも増して姫月の機嫌が悪いようだ。表情が冷たいだけじゃなく言葉が刺々しい。「……いただきます」
俺は軽く手を合わせてから目の前に並ぶ食事に手を付ける。フォークを突き刺すとろりと溢れる半熟の卵が食欲をそり、カリカリに焼かれたベーコンの塩気が空きっ腹に心地良く染み渡っていく。欠点だらけの妹ではあるのだが、仕事で何年も海外に行ったきりの両親を持ったせいか料理の腕だけは一人前だ。「あー…と、豆料理が良い甘辛さで美味いな」「…………」「べ、ベーコンも良いカリカリ具合で美味いし…」「…………」「め、目玉焼きも半熟で美味いし…」「…………」沈黙に耐えられず、必死に料理を褒めるも姫月はじとりと冷たい目で睨んでくるだけだ。単に褒めるだけでは飽き足らないのか!専門家のように豊富な知識を披露しつ味を表現することが大切なのだな…!「…え、えぇと。こ、このパン美味いな。何ていうか麦の穂の香りが…」「……ほのか…??」先程まで一切無視を決め込んでいた姫月が小さく反応を示す。台詞はよく聞こえなかったが、これはパンを褒めるのが得策だろう。「あ、いや。穂の香りが芳醇で食欲をそるなって…」「は?そる!?何が!?この変態兄貴!!」
「へ?何でだ!?イ匂いって言ってるだけなのに何故に変態!?」「い、イ匂いって…!!匂いに反応するなんて変態以外の何者でもないじゃない!!変態!変態!ド変態!」「な、何で褒めたのにそんな罵られるんだ?」「そんな変態なこと褒められたって嬉しくないに決まってるでしょ!」「そ、そうか…匂いを褒めたら変態なのか…」俺は先程まで食べていた麦穂パンを食べきり、その隣りにあるデニッシュへと手を伸ばした。テリッと表面が輝き、甘い匂いが漂ってくるが先程の失敗を踏まえ匂いを褒めることはやめておこう。「あ、こっちはリンゴが中に入ってるんだな。甘さの中に仄かに漂う酸味が…」「……ほのか…!?」
俺の褒め言葉を聞いた姫月の顔が、何故かますます険しくなっていく。「や、だから甘酸っぱくていなって…」「甘酸っぱい!?甘酸っぱい何をしようってのよ!」「な、何って普通に食べてるが…」「たたた食べ…!!??食べるって朝から何変なこと言ってんの??兄貴の馬鹿!スケベ!エロゲ脳!」俺の言葉に、姫月は目を見開き顔を真っ赤にしてぎゃあぎゃあと喚き立てる。意味が分からない。「いや、だから何でパンが美味いって言ってるだけなのにエロゲ脳になるんだよ」「え?ぱ、パン…?」
「そうだ。お前が焼いたんだろ?このパン。だからイ匂いだし美味いって言ってんのに、何でそんなに怒鳴られなきゃいけないんだよ」「あ…な、何だ…パンのことだったんだ…。そ、そっか…」
そう言って姫月はほっとしたように目を伏せる。まったく、この妹は何を考えているのやら。はぁ、と軽く溜息をつき、デニッシュに噛り付く俺に姫月は曇った表情を浮かべる。「あ、あのさ…兄貴…」
「なんだよ」「兄貴はさ。そ、その…ほのかと、お付き合いしたい、の…?」「っぐふ!!!」姫月の質問に俺は食べていたデニッシュを噴出してしまう。「ごほっごほ!さ、さぁ…ごふ!ど、どうだろうな。そもそもあの子の気持ちもまだ確定かどうか分からないんだし、俺の一存じゃ決められないだろ」「…というか、そんなの別に姫月には関係ないじゃないか」「か、関係ないわけないでしょ!」「いや、関係ないだろ…」「だ、だってほのかは私の友達だよ!?しかも兄貴はだらしないし汚いし!兄貴が女の子とつきあったら何が起こるかわかったもんじゃないし」「俺はどんだけ鬼畜なんだよ…」「とにかく!パもマも外国なんだし、だらしない兄を持つ妹として、みすみす不純異性交遊を見逃すわけにはいかないもん…!」「でも、だからといって不純同性交遊はOKなんて言わないんだからね!」姫月は一体何をそんなに興奮しているのだろうか。よくは分からないが、確かに兄妹として交友関係を把握しておきたいというのも分からないでもない。俺だって姫月にもし万が一彼氏が出来たら見ておきたいし、変な奴だったら反対もするだろう。……こんな口うるさくても妹は妹だしな…。「はいはい、分かったよ。ほのかちゃんが俺のことを本気で好きだって言ってくれるなら、付き合いたい気持ちはある」姫月の迫力に観念した俺は今の気持ちを正直に伝えることにした。
「…そ、なの…で、でもさ、彼女いない歴=年の数の兄貴が女の人とまともに付き合えるとは思えないけど…」「お前だって彼氏なんて今までいたことないじゃないか」俺の記憶が確かなら姫月に彼氏が出来たということは聞いたことがない。「そ、れは、だって…私は男の人に興味なんて、ないし」「へ?マジで?お前そういう趣味だったのか!?」「……何の話?」「え、いや、まぁあれだ。俺はお前のことを決して馬鹿にしないからな」
「は?意味分かんないんだけど」「だから、お前が特殊な性癖の持ち主でも俺は気にしないという話だ!言わせるな恥ずかしい!」「特殊な性癖?」「大丈夫だ、応援するからな…。彼女が出来たら紹介するんだぞ」「何で私に彼女が出来るのよ」「え?だってお前女の子が好きなんだろ?」「女の子?別に嫌いじゃないけど」「いやいやもう隠すな。日本で同性婚は認められていないが、養子縁組という手があるじゃないか。諦めちゃいけない」「…マとパ、養子でも貰うの?」「母さんと父さんが養子貰ってどうすんだよ。お前がだよ」「は?何で私が養子貰わなきゃいけないの?」「いや、だから、お前の恋愛対象は男じゃなくて女の子なんだろって話だろ?」「~~っ!??な、なななに言ってんのよこの馬鹿兄貴ーーーー!!」「っぎゃ!!」「信じらんない!!何馬鹿なこと言ってんのよ!女の子が好きっていうのは友達としてに決まってるでしょ!!」「だってお前男に興味なくて、彼氏作らないっつーたらそういうことだろ!?」「違う!!そんな目で見るなぁ!」
「私が彼氏を作らないのは興味もないし、兄貴みたいな性欲魔神じゃないからに決まってるじゃないっ!」「性欲魔神って何だそりゃ…。男なんだから誰だって女の子に興味があるだろ」「何それ!女の子だったら誰でもいわけ?そんなのほのかに失礼だよ!」「女の子だったら誰でもいなんて言ってないだろ!?大体俺みたいなモテない奴は、俺のことを好きって言ってくれる女の子ってだけで好感度120%アップなんだよ!」くそ。自分で言って悲しくなってきた。何で妹相手にいかに自分がモテないか力説しなければいけないんだ。「で、でも兄貴なんて毎日変なゲームばっかやってるじゃない」「変なゲームとは何だ!」「よ、良くわからないけど…女の子を調教したり監禁したりする様なゲーム?」「なっ…!お前エロゲをバカにするのか!エロゲはそんな簡単な言葉で言い表すことは出来ないし、そんな安いもんじゃない!」「じゃ、じゃぁどんなのよ…」「ふむ。そうだな…」「…そう、一言で言えば人生の様なものだ」
「人生って…どんだけ兄貴の人生は寂しいのよ…」「と、とにかく!エロゲの事は良くわからないけど、ほのかが兄貴のそんな嗜好に耐えられるわけないでしょ!?」「アホか。趣味嗜好と現実は違うんだよ。痴漢ものゲームばっかやる奴が実際に痴漢するわけじゃないだろ?」朝っぱらから妹と性の嗜好について語らなければならない状況とはいかがなもんか。というか調教監禁ものが好きだからと言って、それを見境なく現実に行いたいと考える男は間違いなく犯罪予備軍だ。「じゃ、じゃぁもし調教していって女の子がいたらほのかとは付き合わないの?」「は?あ、あぁ、まぁ、もしいればほのかちゃんよりそっちの子を取るかもしれないけど…」自ら調教されたいという女の子なんているわけがない。まったくこの妹は何を言い出すのやら。「それなら…、それなら私が調教される!だったら文句ないでしょ!?」「………」「……………」「…………………はぁ?」あまりに斜め上過ぎる姫月の台詞に俺の意識は飛びそうになる。「あのなぁ……どこの世界に実の妹を調教する兄がいるんだよ……」昔から何を考えているのか分からない奴ではあったのだが、まさかこれ程とは思わなかった。深くため息を吐きながら俺はアホな提案をしてくる妹を一蹴した。「だって、兄貴さっき言ったじゃない!調教させてくれる女の子がいればほのかとは付き合わないって!」「確かに言ったけど、それは兄妹以外の話であってだなぁ…」「人類の祖先はアダムとイヴっていう2人だって聖書に書いてたから、元を辿ればみんな兄弟だ」「お前は一体どんだけ歴史を遡るつもりだ……」いかん。こいつはマジでアホだ。反対を押し切ってほのかちゃんと付き合っても良いとは思うのだが、今後の生活面から見て、これ以上姫月に嫌われることは避けておきたい。相互理解のためにはまずは相手の心情を知り、自ら歩み寄らねば。「……はぁ、よく分からんが、お前は何でそんなにほのかちゃんとの付き合いを反対するんだ?」「……べ、別に、そういうわけじゃないけど…。でも、ほのかは私の友達だし超可愛いし性格もいし、兄貴なんかには勿体無いもん!」「まぁ確かに俺には不釣合いなくらいレベル高い子ではあるが…」「そ、そうでしょう!?しかも兄貴は調教マニアだもん!そんな人に大事な友達を売り渡すことなんて出来ないよ!」売り渡すってお前…。少し言葉が酷過ぎないかとは思うのだが、まぁ姫月が反対するのも当然なのかもしれない。このまでは埒が明かないと思い、俺は懐柔方法を変えることにした。「分かった…。ほのかちゃんと付き合うのをやめたとしたら、具体的に姫月はどんな調教をさせてくれるんだ?」「え…!?ど、どんな調教って……」「俺の持ってるエロゲみたいに精神崩壊起こすような調教でもお前は受け入れるってことなんだろ?」「せ、せいしんほうかいって……」「あ、兄貴は……そういうの、好き、なの……?」顔を真っ赤にさせて、明らかにドン引きしている姫月を見ていると、俺まで気恥ずかしくなってしまう。だがこで手を緩めるわけにはいかない。「そうだな。好きだ」「そ…なんだ……」つーか精神崩壊起こすような調教ってバッドエンドなんじゃね?というツッコミはこでは割愛。恥ずかしそうに俯いてしまった姫月を見て、俺はほっと胸を撫で下ろした。よし。計画通り。これで俺は無事念願の彼女をGET出来るだろう。「………分かった…」「……………はい?」「兄貴の調教は私が受ける。せいしんほうかいするような調教でもすればいよ!だから、兄貴はほのかと付き合っちゃ駄目!」「お、お前…何言ってるのか分かってんのか…?」「分かってるよ。分かってる…!でも、駄目なんだもん!兄貴に彼女なんていらないの!!絶対駄目!駄目ったら駄目なの!」「……………」意味が分からない。本気で意味は分からないのだが、こうして俺の奇妙な妹調教生活は始まったのだった。
「っていやいやいやちょっと待て!」「おかしいだろこの展開!つか妹を調教とかないだろ!」「おかしいのは兄貴の顔でしょ?何言ってるの?頭大丈夫?」「大丈夫だ、問題ない。一番いやつを頼む。…っていや、そうじゃなくてだな?」「一番いやつっていうのが何を指してるのか分からないけど、とにかく!私を好きにしていんだから、彼女なんていらないでしょ?」
「いや、待て。姫月。ちょっと落ち着け」一体どう説得すればこいつは納得するのだろうか。モチツケとか言ってる場合ではない。兄としてひとまず、すっかり頭に血が昇ってしまっている妹を落ち着かせねばならないだろう。「私はいつだって落ち着いてる。落ち着きがないのは兄貴のほうだ」「で?調教って具体的に何すればいわけ?鞄でも持ってあげればいの?」「いや、それは調教とは言わんだろ」思わず突っ込んでしまった。「え?違うの?」「大違いに決まってるだろ…。アホかお前」
「いってえええ!!」「あ。ごめん。蛾が止まってたから、つい」
「蛾が止まって女が平手打ちとかしねぇし!」「私はする」
「…普通の女の子はしねぇ」「~~~!!」「だっから痛ぇっつの!!」キリストじゃないんだから、右の頬を打たれたなら左の頬をも差し出しなさいなどと言えるはずがない。「芋虫が這ってたの。良かったね。咬まれなくて」「芋虫が咬むか!つか芋虫に歯なんてねぇだろ!」「ふん。新種の芋虫がいるかもしれないじゃない。可能性を否定してたらいつまで経っても新たな発見はないもの」「もっともらしく言って自分を正当化すんな!」「そもそもこんだけ暴力的なお前が大人しく調教なんて受けられるわけないだろ!」「ば、馬鹿にしないでよ!調教くらいお茶の子さいさいなんだから!!」
「いや、お茶の子さいさいって何年前の死語だよ…」「別にいじゃん!時代は繰り返すんだから、お茶の子さいさいっていう言葉がブームになる日が来るかも知れないもん!」「と、とにかく!何か命令しなさいよ!」「とは言ってもなぁ。お前すぐ殴るし」「な、殴ってなんかないもん!」「いやいや、さっきから俺何回も殴られてんすけど…」「だ、だから、さっきのはヒルが兄貴に噛みつこうとしてたんだってば!」
「お前さっきと言ってること違うぞ。つか日本の住宅地にヒルがいるとかどんなだよ」「あぁもうごちゃごちゃうるさい!オタクなら黙って調教しなさいよ!」
「何だその一見名言風な言葉は」「私の言葉は全部名言に決まってるの!」
「はぁ…。じゃぁ何を命令されても絶対殴らないんだな?」「あ、当たり前、よ…」
「そうだな…それじゃ」「あ……」姫月の顔が緊張に強ばる。「……とりあえずお茶煎れてくれ」「………」「………」「………はぁ??」
「聞こえなかったか?お茶がほしいって言ったんだが…」「そ、それは聞いたけど!何その命令!兄貴私のことバカにしてるわけ!??」「バカになどしてないさ。お茶を煎れるといっても、只お茶を煎れるだけではない。そうだな。テーマは『ご主人様とメイドな妹』でどうだ?」「や、どうだって言われても意味分かんない」「ふん、いわばこれは調教入門編だ。普段生意気なお前が『お兄さま、お茶が入りました。どうぞ、召し上がれ』と笑顔で言う」「それだけで既にハードルが高いだろう!」「ぐ……そ、そんなこと…」「出来るのか?普段俺を害虫のような目で見るお前が!『お兄さま』と頬を染めて言えるってか!?」「い、言えるわよそのくらい!ちょ、ちょっと待ってなさいよね!」そう言い捨て、姫月はキッチンのほうへと走っていった。ふぅ。アホな妹を持つと疲れるな……。
しばらくして、ほかほかと湯気を立ているお茶ともに姫月が姿を現した。「………」「ほら。『お兄さま、お茶が入りました。どうぞ召しあがれ』だろ?」「お、お、お…おに……」「お、鬼平●科帳って超面白いよね!熱いよね!」
「いや、それもう放送終わってるし…」「は!?何言ってんの今再放送してるじゃない!」
「や、知らねぇし…」「はぁ?本放送が終わった後も、ファンの熱い要望に応えて、スペシャルドラマも制作されてる人気時代劇なのに何で知らないわけ!?」何で知らないかとか言われても、知らんものは知らんがな…。「………」「………」「…で?」「あ。あぅ…あぅ…ぅ…お、おに…」「ん?」「おぉおにぎりの中身はブルーベリージャムとストロベリージャムどっちがい!?」「何だその某ロボットアニメの軍人さんみたいなセレクトは。両方却下」「うぅううう~~兄貴のバカぁああ」「違うだろ?姫月。お兄さま、だ」普段の口の悪さと暴力的な性格も、今は形を潜め姫月は屈辱に耐えている。なかなかに良い光景と言えるだろう。「お、おに、おにおにおにおに…」「鬼連呼してないでさっさと言えよ。簡単なんだろ?」「く…っ!お、おに、さま。お、お茶が入ったからどうぞ召しあがりやがりませ」「…日本語崩壊してるぞ。不合格。もう一回」「くぅっ!おお兄さまお茶が入りましたどうぞお召し上がりくださいっ!!」
「笑顔がない台詞が投げやり過ぎる。もう一回」「くううっ!!お、お兄さま。お、お茶が、は入りました!どうぞ召し上がれ??」姫月の顔はひきつってしまっていて、とても笑顔と呼べるものではないのだが…。「…ふむ」
合格不
合格不合格不合格不合格不合格
不合格不合格不合格不合格合格合格合格合格
合格合格
「あー…、まぁ、姫月なんだしこんくらい出来たら上出来…か?」
「な、何それ!素直に負けを認めなさいよ!」「いや、いつ勝ち負けを競うものになったんだ」「ふん!私のお茶汲み係は完璧でしょ!?私にかればこのくらい朝飯前なんだから!」
「そ、それじゃ、これでほのかに手を出すのは諦めたんでしょ!?」「いや、それとこれとは話が別だろ」「別じゃない!この私にあんな恥ずかしいことさせておいて、ふざけないでよ!」「…恥ずかしいことって、ただお茶を煎れただけじゃないか…」「は、恥ずかしいことも言わされたもん…!」「至って普通の兄妹の会話じゃないか?」「イマドキどこの世界に兄のことを『お兄さま』なんて呼ぶ妹がいるのよ!!」「俺の世界では妹たちは『お兄たま』とか『兄様』『兄君』といった様々な呼び名で俺を呼ぶぞ」「それは兄貴の世界じゃなくゲームの世界でしょうが」「ゲームなどではない!彼女たちはしっかりと常に俺と共にいる!」「俺は彼女たちと共に熱海旅行にだって行った!船の上や旅館で過ごした俺と彼女たちの間には信頼と愛情がしっかりと育まれているのだ…!」「…へぇ?いないと思ったらそんなとこに行ってたんだ…」姫月の目がジトリと冷たく光る。「ふー…ん。バイトもしてない兄貴が。ゲームと一緒に熱海旅行、ね…」「な、なんだよ…!い、いだろ別に!俺の小遣いをどう使おうか俺の勝手だ」「………お小遣い50%カット」「はぁあああ??ちょっ…!お前何言ってんだ!50%もカットされたらゲーム買えなくなっちまうじゃねぇか!この鬼畜!!」「…60%カット」「ぎゃ!嘘!嘘です!鬼畜とか嘘で、ホントはいつも天使みたいだって思ってました!」「へーー。…それで?」「いや、マジで姫月は俺の自慢の妹だよ!料理うまいしっかり者だし家計簿1円たりとも間違えないし!?」「……で?」俺の必死のおだて作戦にも関わらず姫月は仏頂面のまだ。こうなったら泣き落とし作戦に移行するしか…。「だ、だから、小遣いカットされたらバイト始めるしかないしさ…」「正直大学の勉強で手いっぱいだから、バイト始めたら寝る時間が…」「…ゲームする時間を削ればいじゃない」「それは無理だ」「は?何でよ。毎日5時間以上ゲームやってんだから余裕でしょ」「さっきも言っただろう?エロゲは俺の人生だ。ライフラインだ。エロゲが出来ない人生など死んでいるも同然」「よってどんだけ忙しかろうがエロゲはする。それで死んだとしても本望だ(????)」「…死にたきゃ勝手に死ねばいけど、ニュースに取り上げられるような無様な死に方だけはやめてよね」姫月の目は相変わらず冷たいまだ。エロゲのために死ねるとは言ったもの、やはり睡眠時間は大切である。そもそも死んでしまっては、これから発売されるまだ見ぬヒロインたちを攻略出来ないのだ。それでは本末転倒もいとこだろう。「あ、いや。だから…例えばの話であってだな?」「睡眠時間は大切だなって…」「……」「姫月ぃ…」「はぁ…。兄貴、何で私が怒ってるのか分かんないんだ…」
「え?散財したことに怒ってるんだろ?」「違う!」「…それはさ、ゲームなんかにうつを抜かして、結構な金額をつぎ込んでることは腹立つし、元々バカな兄貴が更に屑で底辺な兄貴になって死ねば良いと私は思うよ?」
「でも、お小遣いでやり繰りしてるの知ってるから、それは別にいよ…仕方ないって思う」「でも、でもさ…」そこまで言って姫月の目に涙が浮かんでいるのが分かった。「姫月…お前…」「………っつ」「…お前もラブシスターをやりたかったのか…!」「…………………何て?」「え?いや、だからお前もゲームをやりたかったんだろ?そうだよなぁ女から見ても彼女たちは魅力的だよなぁ」「………」「そうかそうか!それなら仕方ない!もう一台のゲーム機をお前に貸してやるよ!」「…………」「あ。ちなみに俺のお勧めはスズメちゃんだ!ろりろりまん丸な目で『にいに』って呼ばれるのがもうたまんないんだよなぁ」「……ねぇ、兄貴?」「ん?何だ?姫月。質問ならいくらでも答えてやるぞ…って…あれ?」空想の世界から舞い戻り、姫月の顔を見る。…笑みを浮かべているが、その目は決して笑っていない。「いつ、私がそんなゲームをやりたいって言ったのかなぁ?」「え、えぇと…。い、いつだろう?」……どうやら俺はバッドエンド直行の選択肢を選んでしまったようだ。「ホントはね、私は兄貴がやってるようなゲームって心の底から大ッキライで、やりたいどころかCD割っちゃいたいくらいなの」「でも、人の趣味は十人十色だと思うし、そんなゲームばっかやって兄貴が廃人になってもどーでもいんだけど!」「そんなことより何より私が許せないのはね?」「は、はい…」「…っつ!!そのくらい自分で考えろこの屑兄貴!!」バン、っと机を叩いて姫月は立ち去る。ドスドスという無遠慮な足音が遠ざかり、バタンという大きな音が響いた。しぃんと静まりかえったリビングに一人でいるのは何だか寂しい。「……まったく、何なんだあいつは…」結局姫月が何に対して怒っているのか、そして何を考えているのかは分からない。俺はぁ、と深く溜息を吐き、リビングを出て自分の部屋へと戻る。ぱたんと音を立て扉を閉めると、生ぬるい空気が俺の頬を撫でていく。
「…参ったな…」誰に対して言うわけでもなく呟いて、俺はごろりとベッドに横になった。そして結局その日、姫月は自分の部屋から出てくることはなく、互いに一人きりの休日を過ごしたのだった。
カーテンの隙間から漏れる光によって、俺の意識は浮上させられる。
「…朝か……」時計の針は6時ちょっと前を示している。もう少し眠れるかもしれないという誘惑に惑わされる自分を叱咤して、俺は這うようにベッドから身を起こした。「眠い…」重たい瞼を擦りながら、俺はクローゼットを開きYシャツとスーツを手に取った。今日から2週間の教育実習が始まる。正直言って教育者になる気などさらさらない。そもそもイマドキの若者の園に紛れ込むなど恐ろし過ぎだろ。寝間着として愛用しているジャージを脱ぐと、白く貧相な自分の体が鏡に映り込んだ。「また揶揄からかわれる生活になるのか…」子供は正直でとても残酷だ。『キモい』だの『うざい』だの人が傷付く言葉を平気で口にする。その一言がどれだけ人の心を抉るのか知りもしないで。(恐らく言った人間は覚えていないんだろうな…)若かりし頃のトラウマを思い出し、気持ちは暗くなるばかりだ。はぁ、と重い溜息を吐きながら、シャツを手にした時。ガチャリ。「…?」予期せぬ音が部屋の中に響き、扉が開かれる。「兄貴!そろそろ起きないと遅刻する…よ…って…ぇ…」音のしたほうに目をやると、そこには姫月の姿があった。が、何故か姫月の顔は見る見る間に赤くなっていく。まぁ何だ…ひとまず。「えぇと。…はよ…」
「き……」「木…?」
「きゃあぁああ!!あぁあにきの変態!!早く服着てよ馬鹿ぁああああ!!」俺の声を聞き、姫月はハッと正気に戻ったように大声で叫ぶ。「は??わ、ちょ、待て…!」自分の部屋で裸になって何が悪い!?罵声と共に部屋の入り口に積んであったギャルゲ雑誌まで飛んでくるとか理不尽過ぎる!!「いから早く何か着ろぉ!!」「わ、わかった!分かったから落ち着け!!」お前が部屋を出れば全て丸く収まるんだ!と思いつも俺は姫月の剣幕に押され、慌てシャツとズボンを身に着ける。「き、着たぞ!姫月!ほら!!」「はっ…!!」俺が服を着たのを見て、ようやく姫月は雑誌を投げつけてくる手を止めた。「はぁ…お前なぁ…自分の部屋で着替えて何が悪いんだよ…」
「そ、それはそうだけど…」
「で、でも!私が部屋に来るのは毎日決まってることなんだから、その時間は着替えを遠慮するのがマナーよ!」「何だそりゃ…」俺の言葉に反省した表情を見せたのも束の間。姫月は目を吊り上げながら天上天下俺ルールを振りかざしやがる。どこの家でも妹という存在はこうも横暴なものなんだろうか。「…何。その哀れんだような目」「いや、昨日みたいに従順な妹だったら良かったのになぁと思っただけだ…」「~~~っつ!!??」思わず呟いてしまった俺の言葉に、姫月は目を見開く。顔はまるで茹で蛸のように真っ赤だ。「わ、分かったわよ!じゃぁ従順になればいんでしょ!?」「いやいやお前が従順とか無理だろ」「無理じゃない!出来るもん!それに、私みたいな可愛い子が好きにしていって言ってるんだからいでしょ!?」顔を赤くしたま姫月がそんなことを言う。恥ずかしいなら言わなきゃいのに、とも思うが、まぁ確かにこいつの場合見た目はものすごく可愛い。あくまで見た目だけは、だが。「はぁ…いくら可愛くたって妹だしなぁ…」
「……」俺の台詞に姫月は暫し言葉をなくす。何だ?何か変なことでも言ったのだろうか?「?どうした?急に黙り込んで」
「あ…べ、別に!な、何でもない!兄貴は馬鹿なんだから、大人しく私だけに命令しとけばいの!」「いから早く支度してご飯食べて学園に行きなさい!今日は早く行かなきゃいけないんでしょ!?」姫月は焦ったように言葉を紡ぐが、明らかに動揺している。よく分からんが、まぁ確かに急いだほうが良いだろう。それに起きたばかりで、俺は腹が減った。「…じゃぁまぁ飯食うわ…」「そ、そうだよ!さっさと食べてとっと行きなさいよ!」ふんっと鼻を鳴らし部屋から出て行く姫月を見送り、俺もその後に続く。階段を下りる二人分のスリッパの音がパタパタと大きく響きとても耳障りだ。
「ほら、ご飯とお味噌汁」「いただきます…」炊き上がったばかりと思しき白米と味噌汁が食卓へと運ばれ、俺は軽く手を合わせてから目の前に並ぶ食事に箸を付ける。(性格と口の悪さえ除けばよく出来た妹なんだがなぁ…)仏頂面をしたま無言で箸を進める姫月の顔を見ながら、俺はそんなことを思う。
「……何」見られていることに気付いたのか、姫月がじろりと蔑むような目で俺を見る。「え、あー…。そ、そうそう!今日から俺もお前の学園に行くから、何か新鮮だなって思ってさ!」
「…!」咄嗟のでまかせだったのだが、姫月の顔がひくりと歪むのが分かった。よく分からないのだが、俺はどうやら何か地雷を踏んでしまったようだ…。
「い、いくら新鮮だからって、変な気起こしたら絶対許さないからね!」「は??」「兄貴の変態っぷりは知ってるけど、学園では余計なこと話さないで見ないで空気吸わないで!!」「いやいや空気吸わなかったら死ぬだろ…」相変わらずこの妹様は無茶を言う。「反論するな。甘い匂いがする~とか言って校舎内をうろうろしてたら警察に突き出すからね!」「それにほのかに対しても、学園にいる間は教実と生徒っていう関係なのを忘れないで」
「何かあって嫌な思いするのはほのかなんだから、そんなことになったら本気で殺すわよ!」姫月の目が冷たく光る。こいつはマジだ。この目はマジで殺る。「だ、大丈夫だって。ちゃんとほのかちゃんの立場が悪くならないように、一人の生徒として扱うさ」
「約束だからね。死んでも守ってよね!」死んでしまっては約束も何もないだろうとは思うのだが、いつになく真剣な様子の姫月に、俺は一も二もなく無言で頷く。どうやらこいつは本気でほのかちゃんを心配しているようだ。
「ん。ご馳走様」「おそまつ様でした」ずっと音を立て味噌汁を胃に流し込み、俺は学園に行く準備をしようと家中を駆け回る。
顔を洗って歯を磨いて、と朝はどうしても慌しくなってしまうのだ。ちらりと姫月の様子を伺うと、何食わぬ顔で食器を洗い、鞄を片手に玄関の前で待っている。
「ほら、兄貴。鞄にお弁当入れておいたから、早く行くよ」「お、おぉ」最早どちらが年上か分からない。一分の隙もないように姫月は準備を済ませてしまっているのだ。
「お前は本当に出来た妹なのかもしれないな…」
「は?何言ってんの?そんなの当たり前じゃない。私以上に出来た妹がこの世のどこに存在するっていうのよ」自分で言うな自分で。
「?~??」
「……?」先程まで怒っていたのは幻だったかのように姫月はご機嫌のように見える。「お前、何がそんなに嬉しいんだ?」「や、べ、別にそんなのどーでもいじゃん!私だって鼻歌を歌いたい時くらいあるもん!」「ただ聞いただけなんだからそんなに怒らなくてもいんじゃないか…?」「うぐ。う、うるさいな!兄貴のくせに!が、学園が好きだから私は毎朝登校するのが楽しみなの!悪い!?」「悪くはないが…」「そ、そうでしょ!?そ、それに今日は…」「?今日、何かあるのか?」「え、あ、兄貴には関係ないことだもん!」「ふぅん?まぁいんだけどさ、学園が好きなやつなんているんだなぁ」「え?寧ろ学園嫌いな人のほうが少ないでしょ?」俺の言葉に、姫月が心底分からないとばかりにきょとんと目を丸くする。いや、少なくとも俺は大嫌いだった。「だって友達にも会えるし、授業も楽しいし、セーシュンしてるなって感じがするよ!」にこっと笑う姫月は太陽の光をいっぱいに浴びてキラキラと輝いている。何もかもがうまくいって、自分に出来ないことなんてない。毎日が楽しくて仕方がないといった風だ。俺には分からない、手にすることは出来ない。自分と姫月は兄妹なのに、何でこんなにも違うのだろう…。
家から駅まで10分程歩き、30分電車に揺られたら学園はすぐそこだ。
余裕を持って家を出たおかげで、約束の8時までにはまだ10分ほどある。「…しかし面倒くさいな…」「面倒くさいとか言わないの!さっきも言ったけど、ちゃんと実習生らしく清く正しく生活してよね!」「へいへい」「返事は一回」お前はどこの教育マだ。「それじゃ、私は教室に行くから兄貴はちゃんと職務をこなすこと」「分かってるって」
「絶対問題起こさないでよね!!」しつこいくらいに姫月は念を押して校舎の中へと消えていった。「まぁ、とにかく職員室に行くか…」うるさい妹から解放されたが今度は担当教員との挨拶などの更に気の滅入るイベントが待ち構えている。はぁ、と昨日から何度目になるのか分からない溜息を吐き、俺は重い体を引きずるようにして学園の中へと歩を進める。
教育実習は概ね母校に受け入れてもらうことが一般的だ。俺自身も例外ではなくこの白皇学園に来たのだが、現在通っている大学の付属学園のため目新しさも懐かしさも全くない。可愛いと評判らしいピンク色のセーラー服もすっかり見慣れてしまっている。というよりもあの制服=姫月という方程式が自分の中で確立されているため、可愛いとかそういう目で見ることが出来ない。
「しかし相変わらず無駄に広いな…」創立10周年を迎えた歴史だけはある学園なのだが、老朽化が進んだとかなんとかで5年ほど前に改築した校舎はわりと綺麗だ。「職員室の場所は、と…」
俺は過去の記憶を頼りに校舎内を歩く。早朝から部活に励む熱心な生徒たち数人と出会うが、不審者然とした俺に対してまで皆満面の笑顔で挨拶をして通り過ぎていく。部活動に煌めいている生徒達。これこそまさにリア充。俺とは相容れない人種で、普段であれば決して関わることなどないだろう。俺はひとまず彼らに挨拶を返しながら職員室を目指した。こんこん
「失礼します」階段を登り、少し歩いたところに職員室はある。場所自体は昔と変わっていなかったようで、俺はわりとすぐにたどり着くことが出来た。学生時代は正直あまり来たくなかった場所だが…。まぁ人生何があるかなんて予想出来ないよなぁ。そんな風に過去を振り返りながら職員室の中へと入ると、見知った中年男性が俺を出迎える。「やぁやぁ一之瀬くん!久しぶりだねぇ。お爺さまはお元気かね?」たっぷりと脂肪の乗った腹をぶるんぶるんと揺らし、暑苦しい顔で小走りに駆け寄ってきた。(じいの健康を聞く前に、普通なら俺の調子を聞くだろこの狸親父)「小原先生、ご無沙汰してます。祖父も今年の新年会で会った時にはピンピンしてましたよ。お気遣いありがとうございます」心の底では盛大に毒突きながらも、波風立てないのが一番だと思い、俺は表面上は丁寧に振る舞う。「そうかそうか!それは良かった。あぁ、そうそう。君の実習生活は僕が担当することになったんだ。姫月くんも同じクラスだ。よろしく頼むね」「とは言っても、君は特別なんだし、そんなに重労働はさせないから気楽に過ごしてくれたまえ」「いえ、そんな風に特別扱いはよしてください。精一杯がんばりますので、よろしくご鞭撻の程お願いたします」この脂っこく笑みを浮かべる狸が担当になるのか…と、俺は更に気が沈んでしまった。こんなことならじいに頼んで、担当を指定しておけば良かったとは思うが後の祭りだ。「はは、君は相変わらず真面目だなぁ。まぁ良いか。くれぐれもお爺さまにはよろしく伝えておいてくれたまえよ」この狸が会話の端々に口にする「お爺さま」とは、この学園の理事長のことだ。『理事長の孫』という肩書きに対して、権力に弱い大人がゴマを擦ってくる。(変わってないな…)ぼんやりとそんなことを思いながら、俺は狸の後を追った。
「え~。そんなわけで、今日から2週間教育実習に来られた一之瀬誠先生だ。みんな、ちゃんと言うことをきくように」狸の言葉に生徒たちが揃って返事をする。教室内の雰囲気はなかなか良いようだ。「それじゃ、一之瀬先生。自己紹介をしてくれたまえ」狸はそう言って、教壇から少し離れた場所へと移動する。「おはようございます。一之瀬誠と言います。未熟者ですが、皆さんと一緒に色々なことを学んでいきたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いします」
「はいは~い!一之瀬先生に質問ー!」「え?はい、何でしょうか」「先生の名字が一之瀬って、姫月ちゃんの親戚か何かですかぁ?」「あぁ、姫月とは兄妹なんです。でも、だからといって特別扱いはしませんから安心して下さい」むしろ身内だからこそ厳しく接するのが当たり前だと思うしな。心の中でそう付け加えながら、俺は窓際に座っている姫月に目を遣った。「……」
「……」当の本人の姫月は、なんだかものすごい形相でこちらを睨んでいる。いや、挨拶というか自己紹介をしただけなんだが…。何が姫月の気に障ったのだろうか。そしてふと視線を横にずらすと、姫月の隣の席に座っているほのかと目があったが、すぐに俯いてしまった。
そ、そうだよな…。昨日の今日だし仕方ないよな。別に嫌われたわけじゃないはず。
「……」そんなことを思いながらほのかを見ていると、彼女はそわそわと視線を彷徨わせた後そろりと顔を上げた。顔を真っ赤にしながら照れくさそうに微笑んでくれた彼女に、俺は顔がにやつきそうになってしまう。いかんいかんと考えている内にHRの時間は終わっていった。
授業の終わりを告げる鐘の音が響く。実習初日ということもあり、今日の俺の仕事は担当の講師のアシスタント的な簡単なものだった。が、根っからのヒキ気質である俺にとっては、イマドキのガキがうじゃうじゃいるような場所というだけで精神的負担が半端ない。縮こまった筋肉をほぐそうと、軽く伸びをして俺は職員室に戻ろうと廊下に出たのだが。「セーンセ!」「え?」教卓から離れた俺に一人の女子生徒が声をかけてきた。「えぇと、キミは…」振り返るとそこには、先程の俺の自己紹介の時に姫月との関係を質問してきた女子生徒がいた。くるくると不規則に巻かれたボブショートの髪がふわりと揺れる。「雪ゆき名な樹じゅ里りだよ。樹里って呼んでね?」「は、は…。流石に生徒を名前では呼べないかなぁ」今風の軽いノリの少女に、俺は苦笑してしまう。そもそも俺はこういうギャル系の子は苦手中の苦手なのだ。「あは、センセってばお堅いなぁ。ま、いや。ねぇねぇ、センセーはお昼ご飯どうするの?」「お弁当?それとも学食?」「え、えぇと。お弁当、だけど…」やっと一息つけるというところで、捕まってしまうとは俺は運が悪い。「そうなんだ!じゃぁ私たちと一緒に食べようよ!」「私たち?」
「はいはいはーい!私だよー!猫ねこ屋や敷しき唯ゆいって言うの!よろしくね、センセー☆」「え、えぇと…。よ、よろしく」また新しくやかましいのが出てきてしまった。釣り上がった目がまるで猫のように煌と光っている。名が体を現すとはよく言ったものだな。「で?センセ、一緒に食べようよ!私もっとセンセ―とお話したいし?」「私もー!」「は、は…、あ、ありがとう。でも残念ながら、やらなきゃいけないことがまだ残ってるんだ。ごめんね」「え~~。そうなの?」「残念ー。じゃぁまた今度一緒に食べようね!」残念、と言いながらも生徒達の顔は明るいまだ。恐らく心の底から残念などとは思っていないのだ。子供は元々新しい物が大好きな生き物で、自分たちと年の近い実習生などは恰好の獲物なのだろう。「じゃぁねー、先生!また後で!」「ばいばーい☆」俺は軽く手を振って、にこやかに走り去っていく彼女たちを見送った。半日も過ぎればあらかたクラスのことは分かる。生徒達は皆良い子のようで、年若い俺を馬鹿にすることなく、フレンドリーに接してくる。まぁ、それは主に姫月の日々の功績に依るところが大きいのだろう。品行方正、眉目秀麗、文武両道。今まで姫月の生活になど興味がなく知らなかったのだが、我が妹はそういった四字熟語がぴたりと当てはまる完璧超人らしいのだ。全国模試を受ければ上位成績者に名を連ね、街を歩けばどこぞの有名アイドル会社にスカウトされること数十回。気まぐれで始めたフィギュアスケートは国体優勝するほどの腕前で、次の冬期オリンピックの最有力候補なのだと聞いた時には目玉が飛び出るかと思った。その上先生からの受けも良く、誰に対しても公平で優しいと来た。そんな妹を持つ実習生に皆一目置くのは当然の流れなのかも知れない。例えそれがただのキモイオタクでも。まぁ俺は大人ですから?姫月が家ではどんだけ横暴で唯我独尊キャラなのかなどは俺の心の中だけに留めておいてやるけどな?超イ兄貴じゃん俺。「……ちょっと。邪魔なんだけど」「っぐ…」ふぅ、と一息吐いたところでかけられる辛辣な言葉と足を蹴られる衝撃。こんなことをしてくる奴は今のこの学園には一人しかいない。「ふん。鼻の下伸ばしてみっともない。オタクでロリコンなんてマジキモイ」「………」「何よその目。何か文句でもあるわけ?ないでしょ?だってホントのことだもん。この万年発情期変態ヲタ」悪口雑言が飛んでくる方に向き合ってみると、そこにはやはり姫月がいた。家で会う時と異なっているのはすぐ傍に癒しキャラの存在がいることだろう。「ひ、姫ちゃん。失礼だよ、そんな言い方…」姫月の暴言をほのかちゃんはやんわりと注意する。「ほのかちゃんは優しいなぁ…」「え?あ。いえ、そ、そんなこと…」思わず口を付いて出た俺の言葉に、ほのかちゃんは顔を真っ赤にして俯いてしまった。「な、なに人の親友を口説いてんのよ!変態!馬鹿!屑!」「べ、別に口説いてないだろう!?本心を言っただけだ!」「尚更悪い!!」
「っぐ!!」姫月の右ストレートが顎に見事に命中して、俺はその場に崩れ落ちる。
「朝約束したでしょう!?実習中は問題を起こすような行為はしないって!」「は、はい。ごめんなさい」何故俺が謝らなきゃいけないんだとは思うが、こで姫月に逆らうと後が怖い。
「ただでさえ変態なのに生徒に手を出したりしたら、それこそ洒落にならないんだからね!?」
「そ、そんなに言わなくても、お兄さんはちゃんと分かってるし、変態なんかじゃないよ」
「ほのかは甘いの!それに毎日毎日暇さえあればいやらしいゲームばっかしてるのに、変態じゃないわけないじゃない!」「いや、最近はそんな毎日してないぞ。月に12、3本。嗜む程度だ」
「……そんだけやってれば十分だよ…」
「……うぅ……お兄さん……」「あ、いや、違うんだよ!ほのかちゃん!別に全てのゲームがエロいわけじゃ…!」
「何必死に弁解しようとしてんのよ馬鹿兄貴。どんだけ言い繕おうとしても変態は変態。オタクはオタクでしょ」「姫月。その認識は間違っているぞ」「はぁ?何が?どこが?」「オタクといえども、その中は複雑分岐していて一概に変態だとは言えない!」「……それで?」「確かに俺はエロゲも同人誌も大好きだ。愛していると言ってもい。だがその同人誌も書き手によって内容は様々なのだ!」「その中には泣けるものも切ないものも笑えるものもある!同人誌=エロ漫画という世間の認識は間違っている…!」「……こんなとこでそんな馬鹿な持論展開して楽しい?」
「あ、で、でも同人誌って元々は俳句を集めた自費出版本のことを言うんだし、お兄さんの言うことも合ってるんじゃないかな」「この脳内お花畑の兄貴がそんな高尚なものを読むわけないし。無理にこんなのフォローしなくていんだよ」「む、無理じゃないけど…」「はぁ…ほのかちゃんは本当に優しいなぁ」「え、あ……」「…………!」「とにかく!私たちはトイレに行きたいんだから兄貴はさっさとそこどいてよ。超?邪?魔!」昼休みで生徒たちがいるとは言っても、廊下はそれなりの広さがあり、俺がいても普通に歩くスペースはある。それにも関わらずこの妹様は俺を廊下の端の端に追いやりやがる。「じゃぁね!変態色情狂!」「あ…じゃ、じゃぁ…失礼します、お兄さん…」
ドスドスと床を踏み鳴らして去って行く姫月とは対照的に、ほのかは軽く俺に向かって会釈をしてから軽やかな足運びで妹を追っていく。なんつうか、すげぇ疲れた…。俺はよろよろと覚束ない足取りで職員室へと戻る。鞄に入っている弁当箱を片手に、向かった先は。ぎぃ、という錆びた音と共に姿を見せる青い空。
初夏の風は穏やかで、サラサラとした空気が俺の全身を滑っていく。本来屋上には鍵が付いていて、人が勝手に出入り出来る場所ではないのだが、何故か俺は昔から鍵開けが得意だった。そのため、学生時代一人になりたい時は誰にも邪魔されることのないこの屋上に来ていたのだ。
『人は一人でいる時に孤独を感じるのではない。大勢の中にいる時にこそ孤独を感じるのだ』そう言ったのは誰だったろう。うまく言ったものだと思う。今日、身近で姫月を見ていて痛感した。学生時代、俺は誰にも相手にされず友達のいない日々を過ごしてきた。姫月はそんな俺とは真逆の生活を送っている。常に友達に囲まれ、クラスの中心となっている毎日。誰からも愛され、みんなに必要とされている。同じ兄妹なのに、どうしてこうも違うのだろうか。「なんつうか、世の中って不公平だよなぁ…」はぁ、と溜息を吐いて空を眺めていると。「何溜息吐いてるの?」「!!??」突然現れた姫月に、俺は心の底からびっくりしてしまった。まさか先ほどまで羨んでいた人物が、こうもタイミング良く現れるなど思わないだろう。「な、何!?そ、そんなに驚かれたらこっちのほうがビックリしちゃうじゃない!」「あ、いや…悪い。丁度お前のことを考えてたところだったから」「え、私のこと…って何…?」「あー…別に大したことじゃない」「な、何よ…気になるじゃん」「………」姫月は聞きたがっているようだが、兄としての面目もあり先ほどまで考えていたことを素直に言う気にはなれない。どうして姫月ばかり、とかそんな卑屈なことばかり考えてしまう自分を見せるのは嫌なのだ。「とにかく何でもない。…ところで、お前もうメシは食ったのか?」「え?あ、うん。一応…」「ふぅん。早いな」「兄貴は…まだ、みたいだね」姫月が俺の膝の上に鎮座したまの弁当箱を見て言う。「あぁ、空見てたら忘れてた」「は?人が早起きして作ってるのに忘れないでよ!てゆか兄貴が空見て哀愁に浸ってるとか超キモイんだけど」「お前は何でそう棘があることしか言えないんだ。そんなんでよく普通に学園生活が送れるな…」「あぁ、そんなの簡単だよ。だって…」「?」「あ…いや、兄貴以外はちゃんと人として接するし…!」「…その言い方だと俺が人外みたいじゃないか?」「当たり前じゃん。あ、兄貴なんて虫以下だもん」「…昨日は生ゴミで今日は虫か…」「何よ!何か文句あるの!?ゴミから虫に昇格したんだから感謝してほしいくらいなのに!」「妹から虫扱いされて喜ぶ兄がどこにいるんだ」「さぁ?探せばどっかにいるんじゃない?お弁当にホウ酸団子詰められないだけマシだよ」「おま…それ軽く殺人未遂じゃねぇか」「虫を殺しても罪には問われないもん」「………」「まぁとにかく、私のお弁当の余りをあげてるんだから有難く食べなさいよ。残したりしたら許さないから!」「腹は減ってるんだしちゃんと食べるよ」「じゃ、さっさと食べればいじゃない」「はいはい、頂きます」弁当のふたを開けると、そこには色とりどりのおかずが散りばめられている。
「………」弁当を食べる俺の姿を、姫月は無言でじっと見つめる。
「……美味しい?」「あぁ、まぁな。お前、料理だけはうまいし」「料理だけは余計だよ!……でも、そか。美味しいか…」褒め言葉に、姫月は少しだけ頬をゆるめた。
「って、そ、そんなの当然だし!私に出来ないことなんてないもん!」「………」「………」姫月の自信満々な台詞に呆れてしまい、俺はしばし無心に箸を動かした。そんな俺を見ながらも、姫月は何かを思い出したのだろうか。その視線は右へ左へと動き定まらない。「…なんだよ」「え?」「さっきからソワソワしてるけど、何か言いたいことでもあるのか?」「え、えっと…その……」「た、他意はないんだけどさ!屑で馬鹿で10回くらい死んだほうが良いと思うけど!い、一応兄貴だし聞いておきたいんだけど!」「………なんだよ」ものすごく罵られているのだが、既に反論する気力もない。俺は姫月の言葉を待った。「そ、その、さ……。本当に、実習中はほのかに手は出さない、の…?」「はぁ。またその話題か…」「だ、だって!けじめはちゃんと付けないと駄目じゃない!?」「何だそりゃ」「い、いでしょ別に!さっさと答えてよ!」「付き合わないよ。実習後にどうするかは分かんねぇけど、とりあえず2週間はそれどころじゃないし」「それに、昨日はお前も一応俺の命令通りに動いたわけだしな」
「そ、そう……」俺の一言に、姫月は少しほっとした様子だ。「…?」
「あ、いや!てゆか、一応って何よ一応って!あんなに完璧だった私のどこが不満なの!」「…どこら辺が完璧だったんだ…?表情とかペンキが乾いたようなひび割れ具合だったぞ?」
「いってぇ!!」
「あぁ、毛虫が這ってたの。良かったね、刺されなくて」「だから!毛虫なんて素手で潰したらお互い大惨事だろうが!」甚だ不毛なことではあるのだが、殴られる度にこういう会話をしている気がする。
「大丈夫。だって私運動神経いもん。毛虫くらい余裕だよ」「いや、それ運動神経関係ねぇし…。つかお前その暴力癖い加減直せよ」「ぼ、暴力じゃないもん!」「どう見ても暴力だろ」「違うもん!暴力じゃなくて、その…し…躾だもん!」「ぶっ…!!」
「……!!」姫月のあまりに無茶な言い訳に、俺は思わず吹き出してしまった。「わ、笑うな!笑うなぁ!!マとパがいない分、私が屑で底辺でオタクな兄貴を躾なきゃいけないんだから!」「何だそりゃ。俺はペットか何かよ」
「ふん!ペットなんて可愛いもんじゃないもん。年中いやらしいゲームばっかやってる変態のくせに!」「ひどい言われようだな……」「あ、当たり前じゃん!兄貴なんて生きてる価値なんて全然ないんだから!」「はいはい。俺はどうせ屑で穀潰しのエロゲヘヴィーユーザーですよ。生きてる価値なくてすみませんね」「そうだよ!だから私が価値があるように躾てあげないといけないの!」ふん、と鼻を鳴らす姫月に少しイライラしてきてしまう。せっかくの昼休憩の時にまで、どうして姫月の小言というか説教というかご高説を聞かなきゃいけないんだ?「…でもさ。昨日の約束だと、調教されるのはお前のほうだぞ?」「……っつ!??」俺の言葉に、姫月は声をなくし目を丸く見開いた。「う、あぅ…そ、そう…だけど…」「さてと、じゃぁ今回は何をしてもらおうかなぁ…」明らかに狼狽えている姫月を見る。「ひ…や、やらしい目で見ないでよ変態!」「見てねぇし」「嘘だ!ニヤニヤして超キモい!」「キモくて悪かったな…」遠慮なく暴言を吐く姫月だが、俺の命令にびくついているのが分かる。普段生意気な妹が、俺に対してビクビクしているのを見るのは正直なところめちゃくちゃ気分が良い。「そうだなぁ…」「っつ…っ…な、何かしてほしいことがあるなら早く言いなさいよ…」「うーん。それじゃ、屋上は静かだし、BGMが欲しいかな」「BGM…?」俺の言葉は予想外のものだったらしい。姫月は目を丸くしてパチパチと瞬きを繰り返している。「そ。バックグラウンドミュージックだな」
「わ、分かった!それならi-Podを大音量設定にすればちょっと聞こえるかも…」「アホ。そんなもん聞きたくねぇよ。大体お前のi-Podに入ってる音楽なんてJ-POPとか洋楽だろ?」「当然。流行りものから私ベストまでちゃんと入ってるよ!」いや…自慢げに言われても…。「根っからのアニヲタの俺がそんなもん聴くわけないだろ…」「そ、それもそうだね…で、でもアニソンばっかじゃなくて、こういう音楽に触れるのも大切だよ!だからいじゃん」「いや、だからそれ調教になってないし」「あ、そっか。忘れてた…むぅ。じゃぁどうすればいの?漫研からオタクソングでも借りてこようか?あの人たちと話すの超嫌だけど」漫研の人間を思いだしたのか、姫月は顔を歪ませて心底嫌そうに吐き捨てる。まぁ、一般人のオタクに対する態度ってこんなもんだよな。「いや、それもい。別にアニソンが聴きたい気分でもないしな」
「はぁ?じゃぁ何が聴きたいのよ!」「うーん。それじゃ、お前に歌ってもらおうかな」「え?わ、私??」「そ。お前」「え、でも、私アニソンなんて知らないし…」「アニソンが聴きたい気分じゃないって言っただろ?」「アニソン以外で見聞も視野も狭い兄貴の知ってる歌って何?」「…お前はいちいち俺を貶さないと会話が出来ないのか?」
「別に貶してないよ?だってホントのことだもん」「……」「あー…まぁい。とにかくお前に歌ってもらおう!」「な、何歌えばいのよ……」「そうだなぁ…。よし、では『ぞうたん』を歌ってもらおうかな」「………」「は??」「聞こえなかったか?『ぞうたん』だ」「や、き、聞こえたけど…ぞうたんってあれだよね…民謡というか子供の歌というかな…」「そう。『マンと一緒』で定番といってもいあの日本国民の心の歌だ」「……それはいけど、何でぞうたん…?」「それなら逆に問おう。一昔前に子供に見せたくないアニメNo1だったクレパスしんたんのことはアニメに興味のない姫月でも知ってるよな?」「うん、まぁ何回かは見たことあるけど…。でも基本的にあいう下品なのって嫌いなんだよね」「は?お前何言ってんだ。そういう台詞はまずは劇場版しんたんを見てから言え!」「特に『嵐を呼ぶあっぱれ鎌倉大合戦』と『年寄り大戦争』なんかは子供のみならず、大人からの評価も高い名作なんだ!」「……兄貴がしんたん大好きなのは分かったけど、それがぞうたんとどう関係あるのよ」「うむ。少し興奮してしまったが、作中でしんたんはぞーうたんぞーうたん?と頬を赤らめながら歌っていたのは覚えているだろう?それは何故だ!?」「おまけに下半身露出という幼女がやれば最高に美味しいシチュエーション付きだ…!」「とはいえ、お前に下半身露出しろとかは言わないから安心しろ」「あ、当たり前でしょ!こんなトコでそんなことしてたら只の変態じゃない!」「まぁ、そういう調教もありっちゃありだが…」「は?何か言った!?」「いや、何でもない…。ともかくお前に歌ってもらいたいのは『ぞうたん』だ。しんたんが何故この歌を下半身露出しながら歌うのか考えながら歌え」「しんたんが…下半身露出で…ぞうたん…」「まぁ一般的に『キノコ』と表されることのほうが多いがな」「……!!」そこまで言って姫月はようやく何を例えたものなのかに気付いたようで、白い頬を真っ赤に染めあげた。「や、やっ!兄貴の変態!信じらんない!」「俺が変態なのは前から知ってるじゃないか。何を今更なことを言っているんだ?」「そ、そうだけど、そんなこと自慢げに言うなぁ!」「まぁ細かいことは気にするな。ほれ。さっさと歌えよ。昼休み終わっちまうだろ?」
「あ、あぅ、うぅう~」地面に腰を下ろしている俺とは対照的に、目の前の姫月はあたふたと立ち尽くしてしまっている。こういう普段見ることの出来ない姿を眺めるはなかなか楽しいものだ。「まぁ、姫月が俺の調教を受けられないっていうなら、俺は遠慮なくほのかちゃんとお付き合い出来るからいんだけどな」「……っつ!!」俺の言葉に姫月の顔色がサッと変わるのが分かった。
「う、歌うもん…。歌えるもん。べ、別に、子供の頃は学校でよく歌ってたし…」「変な目で見るから恥ずかしいだけで、歌自体は普通なんだもん…」「まぁそうだな。でも、その変な目で姫月も見ちゃったんだもんなぁ。恥ずかしいなぁ…」「うぅう……。そ、その…」
「ぞ、たんー、たん?りっぱなお鼻があるね?」「タンタンって何だよ。焼肉の歌か?」
「っく…!分かってるくせに性格悪い~!」「褒め言葉として受け取っておこう。ほら。いからちゃんと歌えよ」「うぅ……。すぅ、はぁ、すぅ、はぁ……。ぞーうたん!ぞーうたん!りっぱなお鼻があるね?なーがくて太い!すーてきだねぇえええ!!」「何だその投げやりな歌い方は…。もっと感情込めて愛情を込めて歌えよ。歌のお姉さんに失礼だろう?」
「歌い方なんて人それぞれだもん!私はこういう歌い方なの!」「………ほのかちゃんと話に行こうかな」「うぅう…卑怯だぁ……」「何とでも言え。卑怯者と罵られようと、持てるカードは全て使ってこその勝負だ」「いつの間に勝負になったの!?」「何をいう。人生は所詮弱肉強食。何事にも勝とうとする意志が大切なのだ」
「てゆか兄貴なんてニート予備軍の敗者じゃん」「ニートではない!自宅警備員だ!」「…?何それ?セ●ムにでも勤めるの?」「いや…そんなマジレスされても困るんだが…」「…?」「ごほん。ま、まぁ勝負うんぬんは冗談としてもだ」
「冗談だったの!!?」「ま、まぁな…」「うわぁ……全っ然笑えない」「ほっとけ。…ともかくだな。あんな歌い方じゃ合格点はやれないな。もっと感情込めて歌えよ」
「っく……兄貴なんて超音痴のくせに…!」「この場合俺が音痴かどうかは関係ないな。論点ずらしてないでさっさと歌え」「わ、分かったわよ!耳の穴かっぽじってよぉく聴きなさいよね!」「………」母親の影響なのか、姫月はたまにやたら古くさい言い回しをすることがあるな…。年頃の娘としてその言葉遣いはどうかと思うぞ、と兄として少し心配ではあるが。まぁ、姫月が少々恥をかいても俺は痛くも痒くもないしな。
「っつ……ぞ、ぞーうたん、ぞーうたん、りっぱなお鼻があるね?なーがくて太い!スーテキだねー?」「………ど、どうよ!完璧でしょ!?」「だめだな。普通過ぎる。そして笑顔がない。却下」「っく……兄貴のくせに生意気……!!」「ほら、もっと笑顔で歌えよ」
「あぁあもう…!!ぞーうたん?ぞーうたん?りっぱなお鼻があるね?なーがくて太い!スーテキだねー?」「どう!?今度こそ完璧でしょ!?」「笑顔が固い。そしてこんなにも卑猥な曲なのに、どうしてお前は恥じらわないんだ!?」「さっきまで散々恥じらってたじゃない!どこ見てたのよぉ!!」怒りのためか姫月の目には若干涙が浮かんでいるように見える。「歌うのを恥ずかしがるのではなく、歌の内容に恥じらってほしいんだよ!」「ほら、もっとこう頬を染めて、恥ずかしがりつもぞうたんもとい伏字三文字の物体に想いを馳せてうっとりしているような……」「分かるか!?そういうちょっとアンダーグラウンドな感じに歌えと言ってるんだ!」「ぜ、全然分かんないけど、もっと恥じらえばいんだね……」「……すぅ、はぁ。…ぞーうたん?ぞーうたん?りっぱなお鼻があるね?なーがくて太い?スーテキだねー?」
「こ、今度こそ!」「あー…だめだ。お前のそれは只単に恥ずかしいってだけじゃん。もっといやらしく!うっとりと!恍惚と!」「恍惚と…?うっとりと…?いやらしく……?」「えぇと…。ぞ、ぞーうたん?ぞーうたん?りっぱなお鼻があるね?なーがくて太い?スーテキだねー?」「うむ。だいぶよくなったぞ!その調子だもう一回!」「ぞーうたん?ぞーうたん?りっぱなお鼻があるね?なーがくて太い?スーテキだねー?」「よし!もう一回だ!行け!姫月!」「ぞーうたん?ぞーうたん?りっぱなお鼻があるね?なーがくて太い?スーテキだねー?」
「って、何回歌わせれば気がすむのよぉお!!」顔を真っ赤にして憤慨する姫月の姿をおかずに俺は弁当を食す。そしていつの間にやら姫月の歌のトレーニングと化してしまった昼休みは終わったのだった。
とっぷりと日が暮れ、鐘の音ともに1日が終わっていく。無駄に特別扱いをしてくれる狸のおかげで面倒な雑用を押しつけられることはない。俺は今日1日の実習録を付け、狸の机の上に置いた。当の狸はというと、水泳部かどこかそこら辺の顧問をやっているらしい。まぁあのうざったい顔を見なくて済むのは願ったり叶ったりだ。さて、ひとまずこれで俺の仕事は終わりだ。どうするかな……。 |
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发表于 2011-10-18 12:18:29
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帰る帰る
「…帰るか」
ぼーっとするのも悪くはないが、時間を無駄にするのは勿体ないしな。俺は筆記用具とノートくらいしか入っていない鞄を持ち職員室を後にする。
すっかり日は落ちてしまっているが、いくつかの教室には未だ明かりが灯っている。「部活か…。頑張ってるやつらがいるんだろうなぁ」まぁ、興味ないからどうでもいことだが…。そう思って階段を降りようとした時。
「あ…お兄さん」「やぁ、ほのかちゃん。遅い時間まで残ってるんだね」「あ、えっと…私、茶道部なんですけど、教室に忘れ物しちゃって……」「そうなんだ。これからまた部室に戻るの?」
「は、はい……。あ、でも、もうみんな帰っちゃったから、私も帰ろうかな…」「じゃぁ一緒に帰ろうか?夜も遅いし、途中まで送るよ」
「ほ、ホントですか?あ、わ…じゃ、じゃぁすぐに鞄取ってきます!少しだけ待ってください!」「え、あ、うん。分かった…。でもそんなに急がなくていよ」「だ、大丈夫です!すぐ戻りますから!」「や、だから…」「ちょっとだけ待って下さい~~ひゃっ!!」「わ……だ、大丈夫?だから急がなくていって」「あ、あは…、すみません…あ、で、でも大丈夫です!ちゃんと走れますから!」「いやいや、走らなくていから…!」ゆっくり行けばいよ、という俺の言葉を聞いていないのか、ほのかはパタパタと慌ただしげに走り去っていく。しっかりしているように見えて、意外とおっちょこちょいなのかもしれないな…。ほのかが消えていった方向に目をやりながら、俺は小さく笑った。
「ご、ごめ、なさいっ…お待たせ、しました…!」「だ、大丈夫?そんなに走らなくても良かったのに」「そ、な……。は、お兄さんを、待たせる…わけには…いきません…はぁ…」「いや、全然待ってないよ?」「そ、それなら…良かった、です…はぁ、は…」「は、ひとまず呼吸を落ち着けてから帰ろうか」「はぁ、はぁ…ご、ごめんなさ……」「大丈夫?」「はぁ、はぁ、はぁ……」「ふーー…」「はぁ…落ち着きました…。結局お時間取らせてしまいましたね…。申し訳ないです…」「気にしなくていよ。どうせ家に帰ってもやることないしね」「そうなんですか…?」「うん、いつもはゲームをしたりしてるんだけど、昨日から姫月の機嫌が悪くてお預け状態なんだよ」「……そうなんです、か」「ほのかちゃんも姫月みたいなワガマと付き合ってると大変だろ?いつもごめんね」「あ、いえ、そんな…姫ちゃん全然ワガマじゃないですよ」「そうなのか?俺にはものすごくキッツイこと言いまくるし、無茶苦茶言うけど…」「ふ、それはお兄さんだからですよ。友達と家族じゃ、やっぱり違うんじゃないかなぁ…」「そういうもんかねぇ…」どこの兄妹もこんな理不尽な思いをしているのか、と思うと少しだけ心が晴れるような気がした。
「そういえば、お兄さんは姫ちゃんの部活を見に行ったんですか?」
「姫月の部活?…って、何?」「フィギュアスケートですよ。体育館の横にスケートリンクがあるんです。部活といっても、姫ちゃんしか部員がいないから、姫ちゃん専用のリンクみたいなものですけど」「うわ……マジで?金使うところ明らかに間違ってるだろ…」「あは、でも姫ちゃんはホントにすごいんですよ。こ1、2年は国内ではずっと優勝ばっかりで…」「スケートをしている姫ちゃんって本当にきらきらして素敵なんですよ。お兄さんにも見てもらいたいです」にこにこと、自分のことのように嬉しそうにほのかは話す。しかし俺はほのかのように、姫月の功績を手放しで喜ぶことはできない。「うーん。悪いけどあんまり見る気はしないかな」「え…?どうしてですか?」「あくまで俺の意見だけど、例え優勝してたって、姫月一人のためにスケートリンクを作るっていう考え方が嫌いなんだ」「……そ、ですか…」俺の言葉に、ほのかはしょんぼりと肩を落とす。てろんと垂れた犬耳が見えるのは俺の幻覚だろうか。自分が何だかものすごく酷いことを言ったように思えてくる。「………」「………」「あー…、その……」「…………」「えぇと。明日は、姫月が滑ってるところを見に行ってみようかな……」
「!」悲しげに歪んでいたほのかの瞳が、ぱっと華やいだ。「はい!ぜひ見に行ってあげて下さい…!姫ちゃんすごく喜ぶと思います」「は……」にこにこと微笑むほのかは、思いの外強敵なのかもしれないと思いつ、俺たちは帰路についた。
だるい。実習二日目だというのに、既にものすごくだるい。教壇では狸が昔と何一つ変わらない姿で熱弁を奮っている。学園内は全教室冷暖房完備のため快適なのだが、狸の顔を見ていると温度が1~2度上昇するようだ。脂ぎった中年親父は近くにいるだけで暑苦しい。「はぁ……」
「………」「……」…何だか姫月に睨まれているような気がする。とりあえず姫月が怒る理由が全く分からない。まぁ姫月が怒りやすいのはいつものことだしな、と思い、俺は視線を外し黒板へと向き直った。「センセー!さっきの授業分かんなかったから教えてー」
「あ、私も教えてほしい!」「えぇと、僕じゃなくて小原先生に教えてもらったほうがいんじゃないかな」「え~~。やだぁ。センセがいんだもん!」「あんな狸に教わりたくないし」「ねー!だからぁ、センセに教えてほしいな?駄目?」「そ、そう。分かった。どこが分からないの?」俺の時代と変わらず、狸のあだ名は狸のまらしい。少しばかりの共通点を見つけて、俺はくすりと笑ってしまう。「センセ、何笑ってるの?」「あ、いや。今も昔も変わらないものだなって」「え~。センセってば変なのぉ」くすくすと笑われるが、不思議と嫌な感じはしない。彼女たちが笑顔でいることが何だか嬉しく感じた。「……」「?何だ?姫月も教えてほしいのか?」
「は?ばっかじゃないの!?兄貴に教わることなんて何もないんだから!てゆか兄貴に解ける問題程度が私に解けないわけないじゃない!」「そ、そうか……」「ひ、姫月ちゃん……?」恐らく温厚な姫月の姿しか見ていなかったのだろう。俺に向けられた毒舌に、クラスメイトたちは目を白黒させている。「ね、こんな奴に教わらなくても、後で私が教えるよ?」にっこりと微笑む姫月はどことなく凄みを帯びていて、断ることを許さないといった体ていだ。「え、あ…う、うん。じゃぁ、姫月ちゃんに教えてもらおうか、な」「う、うん…ごめんねセンセ。呼び止めちゃったのに…」「いや、気にしないでいよ。また何かあったらいつでも聞いて」
「はぁい!ありがとセンセー!」「……ほら、授業終わったんだから、さっさと職員室に戻れば?」じろりとゴミを見るような目で睨まれ、ぐいぐいと教室の外へと押し出された。
「はぁ…。お前さ、もうちょっと俺にも愛想よくしろよ…二重人格って言われないか?」
「言われたことないよ。それに兄貴に対して愛想良くする必要なんてないじゃん」「愛想良くされたいならもっと尊敬されるような行いをすれば?言っとくけど、兄貴がやってるゲームのような能無し主人公がモテモテになるなんて、現実にはあり得ないんだから!」「そ、そもそもキモヲタの兄貴が女の子にもてるわけないじゃん。ゲーム脳もい加減にしてよね」「言われなくとも俺がもてないことはよく知ってるさ。だてに彼女いない歴=年齢の人生を背負ってないぞ」「威張ることじゃないし…。女の子から声かけられて浮かれないでよね!それと!ほのかにも気安く近付かないで!」「ほのかちゃんに対してもお前に対しても、学園内では皆同じように接するさ」
「っつ……」「?何だよ」「べ、別に!何でもないもん!とにかく、今の言葉、絶対絶対ぜーーったい忘れないでよ!?」「まったくお前は昨日から一体なんだってんだよ」
「だ、だって変態色情狂の兄貴だし、ほのかに手を出すこともあるかもしれないし…。は、犯罪犯しちゃうかもだし」「はぁ…?お前は何の心配してんだよ…。んなことあるわけないだろ?」「ぜ、絶対ないとは言い切れないでしょ!?…女の子から迫られて、経験値ゼロの兄貴がふらっと血迷っちゃうことがあるかもしれないし……」「ねぇよ」「……嘘だ」「はぁ……何でそう疑い深いんだか。そもそも俺のモテなさ具合はお前が一番よく知ってるはずだろ?」「……そ、れは……でも……」いつもは快活な姫月が、妙に歯切れ悪く話す。こいつは一体何を心配してるんだか。「何回も約束してるだろ?ほのかちゃんにも実習が終わってから返事をする」「……」「そもそもほのかちゃんはともかくとして、お前等みたいなガキに手出すとかないだろ」「っつ!が、ガキじゃないもん…!!」「ガキだよガキ。調教の意味も分かってないくせに」「そんなことない!お茶だって煎れたし歌だって歌ったじゃない!」「……お前、まさかあれがマジで調教になってるとでも思ってるわけ?」「え?だって調教だって兄貴が言ったんじゃない」「………」「な、何!??まさか嘘だったの!?」「や、まぁあぁいう調教もしかしたらアリなのかもしれないが……」「……からかってただけなんだ」「あ、いや…まぁ、別に」俺の言うことにびくびくしていた姫月を見て楽しんでいたとは言いにくい。姫月の口端がひくひくと動き、眉はつり上がってしまっている。「へぇ、ふぅん。そう。兄貴は私をからかって楽しんでただけで?調教する気もなければ、私との約束を守る気もないって、そういうこと?」「い、今のところ約束守ってるぞ……」「今のところは、でしょ?」「いや、だって、お前…妹を調教するとかないだろ…?」
「な、なくないもん!何だって出来るもん!馬鹿にしないでよ!ほら!何か命令しなよ!」姫月は苛立ったように言葉を紡ぐ。こいつは何をそんなに必死になっているのだろうか。「いつも嬉しそうに女の子に変なことしてるゲームやってるじゃん!何でそれを言わないの!?」「や、だって妹だしな…」
「い、妹でも、女の子だもん…そんなので…差別、しないでよ…」「ちょ、お前何でそんな泣きそうなんだよ!」「な、泣いてなんかないもん!」「馬鹿兄貴のくせに!変態のくせに!そんなので躊躇なんてするな!」「はぁ…。じゃぁ今日1日下着を着けずに生活しろって言ったらそうするのか?」「…それって…ノ、ノーブラノーパンって、こと?」「そうそう」よくは分からないが姫月は意地になっているだけだ。どうせ実行する気などないだろうと俺は高を括る。「……分かった」「へ……?」「だから、分かったって言ったの!し、下着くらい着けなくても、別にいつも通り過ごしてたら平気…だし」「や、でも風とか吹いたらやばいだろ?」「そ、それは…だけど!言われた通りに出来るんだから、兄貴も約束守りなさいよ!?」姫月はそう言って、慌ただしく教室とは違う方向に走っていった。「……あいつは一体、何を考えてんだ…?」まさか本気じゃない、よな…?つか、俺の代わりに勉強を教えてやるんじゃなかったのだろうか。幾ばくかの不安と疑問を抱えつ、俺は職員室へと戻った。
午前の授業が終わった。「………」「…えぇと。姫月?俺は今何故そんなに睨まれてるんだ?」「…べ、別に睨んでないもん!自意識過剰なんじゃない!?」いやいや、どっから見ても睨んでただろ。「あ、あれだよ。今日も、ご飯屋上なのかなって…。思って…。朝、お弁当渡さずにそのま持って来ちゃったし」「あぁ…、なるほど」
「ほ、ホントは学園で兄貴と話すのなんて嫌なんだからね!」「…大体お前から絡んできてるの自覚してるか?」
「っで!!」「だから痛ぇんだよ!」「じゃぁこのお弁当はいらないの?」「サーセン。欲しいです」昼食に50円払う金があるのなら同人誌を一冊買いたい。しかし生きている以上腹は減るのだ。「ふぅ…。まぁいや。で、どこで食べるの?」「え、いや…」 |
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楼主 |
发表于 2011-10-18 12:19:02
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屋上で食べる屋上で食べる
特に決めていない
「あ~…いや、別に特には決めてないが…」「そうなんだ。あ、じゃぁ天気良いし、中庭で食べようよ」「あぁ、それは別にいけど。…俺に付き合ってばかりで、ほのかちゃんとか友達はいのか?」「わ、私が誰と食べるかとかどうでもいじゃん。ほのかも兄貴のことは心配してるみたいだし…」「へぇ。ほのかちゃんって優しいよなぁ」
「……だ、だからって勘違いしないでよね!ほのかが優しいのは誰に対してだってなんだから!」「いや、そんなの分かりきってるだろ…」「そ、それなら良いけど…」最近の姫月はマジでよく分からない。情緒不安定というか反抗期というのか…。「ほら、中庭に行くんだろ?」「……うん。行く…」まぁ、こいつが変なのはいつものことだ。そう結論付けて俺と姫月は教室を出て行く。
俺と姫月が中庭に着くと、そこには既に数人の先客がいた。「はぁ…やっぱ人がいたか…」「それはそうでしょ。天気良い日は、外で食べる子多いよ」「仕方ないだろ。俺がこの生徒だった頃は中庭なんかで飯食わなかったんだから」「あぁ、兄貴は屋上大好きっ子だもんね…」「……そんな生温い目で見てくれるな」「べっつに~。いんじゃない?」姫月は何が嬉しいのか、機嫌が良さそうに笑っている。そんなに俺に友達がいないのが嬉しいのか?「ほら!いから座って食べようよ。のんびりしてたらお昼休み終わっちゃう」「へいへい…」姫月が座っている隣に腰を下ろす。乾いた芝生がぱさりと音を立てた。
「はい、これ。兄貴の分のお弁当」「あぁ、さんきゅ」
「…え、あ…い、言っとくけど、別に兄貴のために作ってるわけじゃないからね!自分の分を作るついでに兄貴の分を作ってるだけだから!」「……それ、わざわざ念を押すことか?」受け取った弁当を広げ、唐揚げをぱくつく俺に姫月が言う。「だ、だって、兄貴って図々しいし、昨日今日と作ったからってお弁当作るのが当たり前、みたいに思われたら嫌だし…」「別に当たり前なんて思ってない。これに関しては感謝してるよ。毎日外で食ってたらエンゲル計数が上がりまくりだし」
「そ、そう…。そうだよね!私のお弁当食べれて感謝しないわけないもん!」姫月がふんと誇らしげに胸を反らしたその時。「!??」「あ……」「き、きゃぁああああ!!」のんびりと弁当を食べていた俺たちに、スプリンクラーの水が遠慮なく降りそぐ。とりあえず弁当を守らねば、と思った俺はおもむろに姫月と自分の分の弁当の上に被さった。辺り一面に水を振りまいて、スプリンクラーはようやく収まった。太陽の光に反射した水滴がキラキラと輝き、草の香りが立ちこもる。「……ふぅ。大変な目にあったな…」「姫月、大丈夫、か……?」恐らく怒り狂っているだろう姫月に声をかけようとする。そして濡れそぼった姫月に目をやると…。
「っつ……!大丈夫なわけないでしょーー!!もうやだ!信じらんない!何よこれ!!最悪超冷たい!!」飼い主に無理矢理シャンプーされた猫のように、姫月はぷるぷると頭を振って少しでも水気を飛ばそうとしている。シャツはぺったりと濡れてしまって、肌に張り付いてしまっていて。そこで、俺は気付いてしまった。シャツから姫月のピンク色の乳首が透けてしまっていることに。「……ひ、姫月…?」
「?何よ。今すごいらついてるんだから話しかけないでよ!」ぎろりともの凄い勢いで睨まれてしまったのだが、そんなことはどうでもい。「や、お、お前…それ、ちょ…え?」「はぁ?何言ってんのか分かんないんだけど。日本語まで不自由になったの?」「あ、や、いやいやいやいや、だから…そ、それ……」「あいやいやいやいや?ちゃら?へっちゃら?」「ちが…ちが…」
「血が?別にどこも怪我なんかしてないし」「そ、な……」「……?」あまりの衝撃に、俺はまともに言葉を告げることが出来ない。俺は言葉で表すことを諦め、意図するものに対し指を指す。「何?何かある、の…って……」姫月は俺の指の先にあるものに目を移す。
「っつ……!!??」ようやく事態に気付いた姫月は、声にならない悲鳴をあげる。「や、や!み、見ないで!」腕をクロスして胸を庇う姫月を見て、俺はようやく少しだけ落ち着くことが出来た。「お、お前…まさかマジで下着付けてないのか!?」「だ、だって兄貴が言ったんじゃない!ノーブラノーパンで生活しろって…!」周りの生徒たちに聞こえないように、俺たちは声のトーンを少し落として話す。「おま…!そんなの冗談に決まってるだろ?何本気にしてんだよ!」「な、何ソレ!冗談言うなんて思うわけないでしょ!?そもそも調教されるって約束したじゃない!」「そんな約束、マジで取るなよ……」「うるさい!私は本気なの!兄貴も男なら一度交わした約束はちゃんと守りなさいよ!コロコロ言うこと変えるなんて男らしくない!」「いや、君子豹変スということわざもあってだな?」「そんなことわざはどっかの会社の社長になってから言いなよ」「………」「とにかく、私はちゃんと言われた通りにしたもん!」「お前、ホントに何考えてんのか分かんない奴だなぁ…つかアホだろマジで」
「っぐ…!!」「は。そうだよなぁ。いつもみたいに殴りかってきたら乳首見えちゃうもんなぁ」「うぅう~~」恥ずかしそうに涙を浮かべて耐える姫月の姿はなかなか良い。嗜虐心をそられるとでも言うのだろうか。正直調教をする気などさらさらなかった俺の心に、一筋の悪戯心が芽生えてしまった。「なぁ、お前さ。俺の言うこと聞いてくれるんだろ?」「え?そ、そうだけど…それが、何よ」「そんな風に胸を隠してたら弁当食えないじゃん。手、外せよ」「や、やだよ…だって、そんなことしたら…」「見えちゃう、って?ばぁか。露出調教ってのは見せてなんぼなんだよ。隠してたって面白くないだろ?」「そ、そんなこと言ったって…。わ、私、そんなこと…」「調教させてくれるんだろ?ノーブラノーパンになったって、それを表に出さないなら誰得だよって話じゃん」「で、でも…でも…」「何だよ。あんだけ約束約束うるさかったのに、いざこうなるとやっぱ嫌だって言うのかよ?そんなんで自分は大人だとか、命令通りに出来るとかよく言えるよな」「だって…こ、こんな、周りに人がいる所で…」「バレるかバレないかギリギリの所が一番楽しいだろ?いからさっさと言う通りにしろよ」「……っつ……」
俺の言葉に、姫月は目を伏せて手を下ろした。夏の日差しで先ほどよりは乾いたもの、未だ制服の大部分はぺたりと肌に張り付いたまだ。ツンと上を向いたピンク色の突起がありありとその存在を主張している。「は。見られて感じてるのか?乳首勃ってるじゃん」「そ、そんなこと、ない…!変なこと、言うな…!」姫月は震える手で弁当箱を手繰り寄せ、何でもないように振る舞おうとしている。しかし、先ほどスプリンクラーの水を浴びて注目を浴びてしまった俺たちのほうを見ている生徒たちが数人いる。そしてその内の一人が姫月の状態に気付いてしまったようだ。「な、なぁ。一之瀬さんの服、透けてねぇ?」「そりゃ、さっきあんだけ派手に水被ったら透けもするだろ」「や、そうだけどさ…。ち、乳首がさ…見えてる気がすんだよ」「そんなわけねぇだろ。ブラが透けてるくらいだろ?…って、うわ…ま、マジだ…」「な?な?あれ絶対乳首透けてるよな?」「うっわ~。何で?何で?マジラッキー」彼らの会話に聞き耳を立ていると、姫月の顔がますます真っ赤になっていくのが分かった。「あの子たち、お前がノーブラって気付いたみたいだな?」「…っつ!べ、別にあんな奴らに見られたって恥ずかしくなんかないもん…!」「嘘言うなよ。今にも泣きそうな顔してるくせに」「嘘じゃないもん!平気なんだから!」「じゃぁあいつらに向かって笑顔で手でも振ってやれば?お前の乳首見れて超喜んでるし」「な、何でそんなことしなきゃいけないのよ!」「恥ずかしくないなら平気だろ?」「で、でも…でも…」「ほら。命令」「う、うく……」
姫月は渋々男子生徒たちのほうへと顔を向け、引きつった笑みを浮かべて手を振った。「うっわ!一之瀬さんが俺に手ぇ振ってくれた!」「ちげぇよ!俺に手ぇ振ってくれたんだよ!やっべぇマジ可愛い!」姫月の愛想笑いに男子達は大げさなほどに喜んでいる。「お。良かったじゃん。お前の笑顔に乳首のことは忘れてくれたみたいだぞ」「っつ…最悪。何で、私があんな奴らに…」「は。恥ずかしくないんだろ?平気なんだったらこんくらいサービスしてやってもいじゃん」「それに、そうこうしてたら服も結構乾いてきたし」「…っく…」姫月は納得がいかないのか、悔しそうに顔を歪めている。俺はそんな姫月の顔を見て、こういうのも結構楽しいかもなと思い始めたのだった。
陽が傾き、鐘の音が校舎に響き渡ると、HRを終えた生徒たちが一斉に教室から飛び出していく。「さて…どうするかな…」実習録を書き終え、空いた時間に何をしようか考えたところで、俺は昨日のほのかとの会話を思い出す。そういえば、姫月は部活でフィギュアスケートをしていると言っていたな…。「スケートリンクに行ってみるか…」俺がこの学園に通っていた頃にはなかった、真新しい建物が体育館の横に建てられている。「昨日ほのかちゃんが言っていたのはこか…」重厚な扉を開けると、建物の中は夏とは思えない冷気に充ち満ちていた。「寒いな…」スーツを着ていても肌寒さを感じる。
ロビーのような部屋を通り抜けると、そこにはキラキラと白く輝く銀盤が広がっていた。「相変わらずジイのやることは金がかっているな…」金に物を言わせるやり方。ジイは有能な人間が大好きで、その高い能力を伸ばすためなら投資を惜しまない。そのため何をやらせても神童と謳われた姫月を甘やかしまくっているのだ。まぁ、今更そんなことで僻むことが出来るほど純情でも子供でもないが。そんなことを考えながら、リンクのほうへと目を向ける。広々とした銀盤の上で、音楽に合わせて姫月がくるくると円を描くように踊っているところだった。細く長い手足が優雅に伸びていく。タイミングを計るようにリンクをすべり、一度深く沈みこんだと思ったら高く高く宙を舞う。素人の目測では何回転したのか分からない程に、くるくると綺麗に回って銀盤へと戻ってくる。華奢な指先が何かを求めるように天を仰ぎ、片足を高く上げたまリンクを自由に滑っていく。いつも見ている姫月の姿はそこにはない。子供っぽいあどけなさなどこかに置いてきたかのような、大人の顔をした妹が艶やかに踊っている。夢か現うつか。それはまるでお伽噺から抜け出してきたかのようで……。パンパンと手を叩く音が響き、ぶつりと音楽が中断された。その無遠慮な行為に、俺はっと現実に引き戻される。優雅に踊りを披露する姫月に、俺は目を奪われてしまっていたようだ。先ほどまで心の中で散々文句を言ってはずなのに、調子がいものだな。俺は自分自身に苦笑しつ、動きを止めてリンクの中央に佇む姫月に目を戻した。「?誰だ、あれ」スケート靴を履いた一人の男が、姫月のほうへと滑っていく。見たところ俺と同い年か少し上くらいだろうか。細く見えるが、服の上からでも分かる無駄な脂肪の付いていない引き締まった身体。顔のほうに目をやれば、そこには文句の付け所がないほど完璧なパーツが、整然と配置されている。街を歩くと、いわゆる雰囲気イケメンという輩は山のように見かけるが、こまで正統派の美形はそうそうお目にかれないだろう。普段姫月という美形を見慣れている俺からしても、その男の持つ一種独特の雰囲気に呑まれそうになる。「……~~」「……~~」俺のいる場所から姫月たちのいる所までは距離があるため、何を話しているかまでは分からない。先ほどまでの演技に対して話し合っているのだろうか。姫月の顔は未だ真剣なまで、その男の言葉に軽く頷きながら話を聞いているように見える。…のだが。「いくら何でも近過ぎだろ。あれ…」姫月が動きの確認をする度に、男の手がその身体に触れていく。腰や脇、腿のかなり際どいところにも、男は平気で手を回すのだ。心なしか顔も近い。訳の分からない嫌悪感が俺の心に芽生え、姫月と男を睨んでしまっていた。「…?」俺の視線に気付いた男は、にこりと笑みを浮かべた後姫月の顔に寄せて、何か一言二言口にする。「…!」その言葉に姫月は顔をぱっと赤らめたかと思うと、何か喚き立てた後くるりと身体を反転させた。そのひとつひとつの仕草にすら何か特別な関係性があるように思えて、俺の不快感はますます高まっていく。姫月が何をしていようと俺には関係がないと思っているのに…。「何だ?これ…」自分自身の感情に説明が付かなくて、俺はその場を離れようとリンクに背を向けた。「わ、わ!ちょ、待って!」「え?」ゴトゴトと不思議な足音が近付いてきて、不審げに振り返ると、そこには先ほどまでリンクにいたはずの姫月の姿があった。「何?何で来てるの?」「別に意味はない。只、ほのかちゃんからお前の部活のことを聞いて来てみただけだ」
「ほのから…?そ、そうなんだ…。あ、でも折角来たんだし、見てってよ。少し休憩したらまたすぐに練習するから」「別に…いけど…。それより、あいつ一体誰なんだよ」「あいつって?」「…あっちにいるあの男だよ」そう言って俺が指を指したほうに姫月は目をやる。「あぁ、俊成さんのこと?」「…俊成、さん…?」何でこいつ、名前で呼んでんだ?「うん、俊成さん自身も選手として活動してたんだけどね、怪我で引退してからはコーチしてくれてるの」
「昔の映像観たけど、俊成さんってば本当に凄いんだよ!」
「羽根でも生えてるんじゃないかってくらい楽々4回転を決めちゃうんだから!」
「てゆかね。こだけの話、私、俊成さんに憧れてスケートを始めたんだ」ふ、と照れくさそうに姫月が笑う。「…そんなことはどうでもいけどさ。お前、何で『俊成さん』なんて呼んでんだよ」「え?あぁ、始めはコーチって呼んでたんだけど、『自分はコーチなんて呼んでもらえる程じゃないから』って」「そんな風にさらっと言えちゃうなんて凄いよねー」笑顔で話す姫月に苛々する。「…そうだな。凄いな」「だよね-。だから引退しちゃったのは残念だけど…って、あ。そろそろ戻らなきゃ」心底残念そうに話す姫月に腹が立つ。 |
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发表于 2011-10-18 12:27:22
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妈啊。。我的眼。。 |
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楼主 |
发表于 2011-10-18 12:28:16
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发表于 2011-10-18 12:53:23
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蛋疼的生肉 |
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发表于 2011-10-18 13:24:03
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回复 3# 冰水琉璃
冰水。。不要发这种东西压力很大的哟 |
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发表于 2011-10-18 13:25:23
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发表于 2011-10-19 04:08:09
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哎哟妈呀,看的眼睛好酸。。日语词典现在开始膜拜你。。。 |
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发表于 2011-10-19 22:25:27
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虽然我看不懂,不过还是那句话————剧透退散 |
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发表于 2011-10-20 07:51:48
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发表于 2011-10-21 09:16:42
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回复 11# sindin
复制的。当时拜托冰水提的文本。。 |
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发表于 2011-10-24 15:33:46
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发表于 2011-10-25 12:52:46
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发表于 2011-11-12 11:49:31
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翻译机都要爆了。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。 |
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发表于 2011-11-21 13:46:58
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发表于 2011-12-27 02:15:18
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发表于 2011-12-29 18:47:29
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发表于 2012-2-1 22:26:27
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发表于 2012-2-9 19:02:54
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无语了,浏览器给翻译的乱七八糟.还不如不翻译看着养眼 |
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发表于 2012-2-11 17:22:26
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发表于 2012-2-27 04:55:45
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必须支持的啊 |
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发表于 2012-2-27 13:27:59
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发表于 2012-5-11 12:56:59
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不過我還真的看了好久的說 |
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发表于 2012-12-30 06:35:08
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